逸話がある。
かつて太陽に憧れて飛んで行った天使だったか何だったかが、結局その熱に灼かれて朽ちてしまう話だ。
憧れというのは時に身を滅ぼす、という教訓だったのだろうか。
その天使はそれでもきっと最期まで幸せだったのだろうな。
憧れの存在に手を伸ばせば届く距離、その見返りとして身は朽ちる。
推し活にも近しいのかもしれないな。
だからこそ一生手を伸ばしても届かない距離に憧れはいてほしい。
太陽に焦がれて手を伸ばして身体が無くなるのも一つ、究極の推し活の形。
私は自分の身が今のところ大事なので極めなくても良さそうだ。
お着替えしましょう
ようやっと季節が冬めいてきたのよ
このセーターに腕を通してあげれば冬仕様の完成だ
嗚呼泣いてるの?どうして?
セーターはまだ暑かった?それとも苦手な色だとか?
理由の分からない涙は嫌いなの
今度はあなたの瞳も奪おうかしら
木枯らしがぴゅうと吹き付け、枯葉がひらりと落ちてゆく。
一年の中で一番大好きな季節かもしれない。
耳朶はひんやり冷たく、指先は悴む。
スッキリした空気が寝惚けた頭をしゃんと起こしてくれる。
おはよう世界、おはよう冬。
音のない朝の切り取られた今を気持ちよく味わっていこう。
この関係に名前をつけるとしたら一体何だろうか。
身体だけの関係にしては心の繋がりも十分過ぎるほど感じていて。
でもおいそれとその枠に収まるわけにはいかない。
少なくとも自分はこう思っていた。
「愛しているよ」
嗚呼やめてくれ。心が身体が、勘違いしてしまいそうになる。
とくんと弾む胸のうち。
それでも今はまだこの気持ちに名前をつけるわけにはいかない。
気がついた時には得体の知れない化け物に身体の自由を奪われていた。
化け物は全身に包帯を巻き付け、腐りゆく身体を何とか保っているようだ。
俺は一糸まとわぬ姿にされ、嫌という程蹂躙される。
怖い、逃げ出したい、助けてくれ。
湧き出る嫌悪感、恐怖とは裏腹に心は存外凪いでいるのは何故だろう。
ぽたり、化け物が涙を零す。
本来なら汚らわしいと思っても良いはずなのに自然と俺は化け物の頬にそっと手を触れていた。
「……泣くなよ、」
「うう……」
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。何故だ。分からない、何も、思い出せない。
それでも俺はこの化け物の涙をこれ以上見たくは無い。