朝起きて新聞を取りに行く時の空気の冷たさとか、しんと静まり返った朝の静けさとか。
そういったものを含めて私は冬が好きだ。
夜は星の光が真っ直ぐに届く。
全ての雑味を削ぎ落としてくれているようで嬉しくなる。
吐く息の白さ、耳朶の痛さ、嗚呼もうすぐ大好きな冬がやって来る。
この身を八つ裂きにしようか。
ぴり ぴりり ぴりぴり
身体なんてあっという間にはなればなれ。
身を引き裂くことはできても、心を引き裂くことはできない。
ぴり ぴりり ぴりぴり
せめて身体だけでも引き裂こうかしゃん
うちには大きな子猫がいる。
それも二匹。
いや、正確に言えば猫耳と尾をを生やした人間のそれ、なのだが。
人の言葉は話せず、あくまでも猫として一日を過ごしている。
服は着ているし食事も人と同じ物を食べる。風呂やトイレも問題なく使える。
しかし、一番厄介なのは彼らに発情期が来たときだ。
何度俺の貞操が狙われたか分からない。
その都度家を出て、しばらくは外泊するなどしてやり過ごしていた。
頃合を見計らって帰宅し、これまでと何一つ変わらない生活を続けていたというのに。
「にゃーお、」「にゃっ」
どうも今回は見込みが甘かったらしい。
帰宅した途端、獲物を捕える狩人の如く二人に捕まってしまった。
そろそろ年貢の納め時らしい。
否、いつかこの時が来るのは早かれ遅かれ分かっていたことだ。
……猫のソレ、は棘が生えていると聞く。
嗚呼、せめて痛みは最小限で済みますように。
神に儚く無駄な祈りを捧げ、俺はゆっくり目を閉じた。
秋の風がそっと頬を撫ぜる。
暑かった夏もようやく落ち着きを見せてくれた。
そう思っていたのも束の間、今度は一気に気温が下がるというから驚きだ。
路面の銀杏並木も急に寒くなる温度に慌てて葉を黄色に色付け始めた。
少しずつ四季が変わりゆくのを肌で感じる。
秋風よ、もう少しだけ傍にいて
「また会いましょう」
あなたは確かにそう言った。
それなのに何故。
次に会えたのは真っ白い箱の中。窓を叩いてももう二度と微笑んではくれないのね。
美しい白百合がとても良く似合う。
嗚呼どうかもう一度目を開けて、私を見てほしい。
あなたに似合う私になれたでしょう、あなたのその目でどうか確かめて。
白い箱の君は、優しく瞼を閉じたままだった。