目に見えるものだけが全てじゃないとお前は言う。
じゃあ今だってわざわざ電気を付けなくても良いじゃないかと言えばどうもそれは違うらしい。
分からない、少なくとも今は暗い方が全てを覆い隠してくれるからこちらとしては好都合だというのに。
「目に見えるものだけが全てじゃないなら、今だって暗くても良いだろう」
「それはそれ、これはこれじゃ」
強引に物事を進めようとしているのが分かって苦笑してしまう。
見たいんだな、要は。
暗がりじゃ見えないことがたくさんあるから、こいつにとって明かりは必須なんだな。
愛い奴。覆い被さってくる相棒の背中にゆっくりと手を回した。
遥か昔、イギリスの人々は萎れた茶葉を炒って煎じて飲んだらしい。
そのお陰で現在にわたるまで紅茶の文化がひろまったと言っても過言では無い。
かく言う私もそのおこぼれにあずかる人間の1人だ。
たっぷりのお湯でティーバックを蒸らす時のあの鼻腔を擽る香りと来たら。
紅茶ソムリエ、いつか資格を取りたいと思っているものの1つだ。
あなたもとっておきの時間に紅茶はいかが?
言の葉と書いて言葉。上手いこと名付けたなあと思うのである。
表に発するもの、その裏に隠された本当の意味。
それを丸ごと包み込んだのが「言葉」なのだろう。
貴方と僕だけの合言葉。愛と呪いとが一緒くたになっている。
愛でお互いを縛り、呪いでお互いを言祝ぐ。
そこには他者の入り込む隙間なぞ無い。
愛を込めて呪いをかけよう。
一生覚めない合言葉を貴方に。
空が白む。
夜露をたっぷりつけた草花が生き生きと朝を喜ぶ。
鳥たちの囀り、身が引き締まるような凛とした空気。
そのどれもが私を嬉しくさせる。
友よ、今日も私は生きているぞ。
きっとこの空の下で君も同じ朝を迎えていることだろう。
それだけが私を癒し、救ってくれる唯一の事実なのだ。
待て待て、まだお前はその時じゃあない。
君はついさっきここにやってきたばかりじゃないか。
月1度の楽しみがこんなにあっさりと終わりを迎えるなんて。
でもお前がいなくなることで新しい仲間が手に入るのも否めない。
しばらくガラスケースと睨めっこ。そろばんを頭の中でリズミカルに弾く。果たしてA男が導き出した答えとは。
「……これ、ください」
さようなら、諭吉。
「毎度!」
確かに懐は寒くなった。できれば行かないでほしかった。
でもその分ほかほかと温まる自分の心。
袋に詰めてもらった、推しのフィギュア。
オタ活とは何かと引き換えに何かを失い、そして得るのだ。
やはりお迎えして正解だった。
会うは別れの始まり、A男はスキップしながら帰路についた。