まにこ

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9/13/2024, 9:20:51 PM

空と海とがどこまでも混ざりあって溶け合って、白とオレンジとほんのり青色の美しいグラデーションを作る。
これはやはり自分の目で見たい、とB男は思う。
毎年元日になると初日の出を拝むという名目で、某駅に降り立つのだ。
海からぽっかり顔を出す日の出は真っ赤に萌えている。
ありがとうと今年もよろしくの気持ちを込めて、寒さに悴む手を擦りながらも合掌する。
スマホのカメラを起動させて確りと記録に残す。
おみくじよろしくその年の吉凶を占うように、毎年自分を試すのだ。
いつまでできるか分からない、恒例のこの習慣。
希望と夢に満ち溢れた年の始まりを、初日の出で祝福できる喜びをB男はそっと噛み締めた。

9/12/2024, 10:36:24 PM

空は澄み渡るように青く、雲ひとつない。
淡いピンクの花を付けた樹々もこの日を祝福してくれているようだ。
新たな門出を祝うには正に絶好の日だと言えるだろう。
あちらこちらで抱き合ったり、歓声が響いたり、学生達の盛り上がりはまるでお祭り騒ぎだ。
そんな中、人知れず咲く一輪の花。それは見事に咲き誇る美しい姿を見せたり、はたまた桜吹雪のごとく潔い散り際だったり。
「好きです」
それはベタに校庭の裏かもしれないし、がらんとした教室の中だったりするのかもしれない。
学生達は一世一代の覚悟を決めて想い人に本気をぶつけ、また受けとめる相手も真剣に想いを返す。
もしこれが叶おうが叶うまいが、後々振り返ればきっと素敵な思い出になるはずだ。
貴方のまだ何も知らない真白い人生のキャンバスに、素敵な一ページが刻まれますように

9/11/2024, 9:59:21 PM

私は壁にバツ印を付けた。
今日で十日目。
何せこうでもしないと日にちの感覚が狂ってしまいそうになるから。
真白い部屋には窓は無く、ベッド、トイレ、それとシンプルな机に一本の鉛筆。ただそれだけ。
ああ、一番大事な事が抜けていた。
ベッドから伸びる鎖は私の片足を戒めて離さない。
扉には届きそうで届かない絶妙な長さになっている。
誰が何のためにこんな真似をしたのか、今も分からないのだ。
不定期に運ばれてくる食事は今日も喉を通らない。
今の私に出来るのは寝て起きて排泄をして日にちを壁に刻むこと、ただそれだけ。
いつか解放されると信じて、その時のために自分のカレンダーを作っておかねば。
私はここで生きている証を今日も残し続ける。

9/10/2024, 11:12:22 PM

会うは別れの始まり、上手いこと言ったことわざがあるもんだ。
自分に覆い被さる男の背にそっと手を回す。
これで覚悟を決めた。今までの自分に別れを告げることにした。
きっとこの先にまた、新たな出逢いがあるに違いない。
目の奥がバチバチッと弾けるような衝撃 内臓が全て押し潰されるような感覚 襲いかかる今まで感じたことの無い激しい痛み
今、確かに何かを失ったのだ。お返しと言ってはなんだがその背中に強く深く爪を立てる。
さようなら今までの自分
はじめまして新しい自分
気付くと一筋の涙が頬を伝い落ちる。
悲しいのか嬉しいのか、まだ男にはそれが分からないでいる。

9/9/2024, 10:46:14 PM

この世の中は「世界でひとつだけ」で満たされている。
少なくともA子の生きている世ではそうなのだ。
一つとして同じ物が無いと常々思う。
いくら量産されたスーツを身に付け、他の人とほぼほぼ変わらぬ化粧をして面接に臨み、他人と同じような志望動機を説明したとしても、である。
「まーたお祈りメールだよ」
もう何度落とされたか分からない不採用通知を削除して独りごちるA子。
この広い広い世の中には「世界でひとつだけ」の私をきっと必要としてくれている場所がある。
頬をパンパンと叩き、再度気合いを入れ直す。
――よし、やるぞ。
彼女はまだ見ぬ世界を拡げるべく、その扉を慎重にノックした。

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