最近テレビをつけても、どのチャンネルもアニメやバラエティなんかやってなくて、みんなニュースをやっている。
もうすぐ世界が終わるらしい。巨大隕石が地球に衝突、とかなんとか言ってるけど、俺は正直信じてない。
ニュースキャスターが言うには、どうやら今日隕石が落ちてくるらしい。
みんなこんなの信じて、おかしいだろ。
そんな風に思っていたとき、電話がなった。先輩からだ。
「もしもし!」
「もしもし。あのさ、今から公園に来てくれない?話したいことがあるんだよね」
「え、いいですけど……」
「ありがとう。じゃあまた後で」
ぷつん。彼女は要件だけ伝えると、すぐに電話を切った。
先輩から呼び出しなんて、珍しいな……。
そう思いながら俺は玄関の扉を開けた。
公園の入口に先輩を見つけた。俺は自転車のブレーキを踏む。
この公園は、先輩と一緒に帰る時によく寄り道していた。展望台みたいな高いところで、ベンチに座って話したり、肉まん食べたり。
高台にあるから、ちょっと階段がキツいけど。
「先輩!」
「来てくれてありがとう」
「いえ……それより話って?」
俺が問いかけると、彼女はにっこりと微笑む。
「うん、たくさん話したいことがあるの。はやく行こう」
そう言って俺の手を握る。俺は思わずドキンとした。
彼女に連れられたまま着いたのは、やっぱりいつものベンチだった。
「はやくはやく」
先輩に急かされて座ると、彼女はそれから色々なことを話し始める。
本のこと、学校のこと、友達のこと、家族のこと、俺との思い出とか、色々。
先輩は話が上手い。なんだか興味をそそられて、つい聞き入ってしまった。
すると、彼女は
「あなたも話したいこと、ある?私、あなたのことももっともっとたくさん知りたい」
と俺に迫った。
急に言われても話題が……とか思ったけど、話し始めると案外そうでもなかった。
部活のこと、ダチのこと、後輩のこと、ライバルのこと、家族のこと、先輩との思い出とか、色々。
彼女は聞くのも上手だ。うんうん、と相槌を打ったり、聞いて欲しいところで質問してくれたりで、俺はつい話しすぎてしまった。
それに気づいて、
「あ、すみません…俺ばっか喋ってますね」
と謝ると、彼女はふるふると首を振った。
「ううん、あなたの話聞いてるの、とっても楽しいよ。もっとたくさん聞きたいくらいよ」
そう言って笑ってくれる先輩を見て、ああ、やっぱ好きだな……って。
俺がそんなことを思っていると、彼女は少し探りげに喋りだした。
「……あのね」
聞いたことのないくらいか細い先輩の声。
なにか重要なことを言われるのだな、と察した。
「わたし……」
「ど、どうしたんですか?」
「……もうすぐ、終わっちゃうね」
「え?」
「世界。私ずっと信じられなかったけど……なんかようやく実感湧いてきて……最後に思い出作りたいなって……」
先輩は泣きそうな声でぽつりぽつりとそう零した。
「俺は……まだ…信じられないですけど……」
「ふふ…うん、あなたならそういうって思ってた。頑固だもんね」
そう彼女が笑う。苦しげなその表情が、俺を堪らなく焦らせる。
ほんとうに……終わるのか……?
「私、まだやりたいことたくさんあるよ。あなたと沢山色んなところも行きたいし、本だって沢山読みたい…家族とも友達とも、もっと笑っていたかったな」
ついに彼女の瞳から雫が落ちた。
俺は慌てて彼女の目を手で拭う。
「……あなたは最後まで優しいのね」
先輩は俺の手を握った。
そしてぎゅっと繋ぐ。
「……ごめんね。私、あれだけ喋っておいてまだ話してないことがあるの」
「な、なんスか?」
「……最後の最後に伝えるなんて、ちょっと卑怯かもしれないけど…」
そう呟くと、彼女は俺をそっと抱きしめた。
「せ、せんぱ……」
「ずっとずっと、好きでした」
その瞬間、向こうの空に、流れ星が通った。
【2023/06/07 世界の終わりに君と】
部活中、突然雨が降り出して、毎朝きっちりセットしてる髪が崩れてしまった。
早く直そうとヘアワックスを探すけど、今日は生憎忘れてきてしまった。
しかも、色んなダチに貸してもらえないか尋ねても、みんな忘れたり切れたりで誰も持っていなかった。疫病神でもいるんじゃないだろうか。
そのまま部活が早く終わってしまったので、先輩のもとへ急ぐ。
彼女は晴れてる日はベンチで待っててくれてるけど、雨の日は図書室にいるのだ。
階段を駆け上がって扉を開けると、先輩は一人きりで静かに本を読み進めていた。
「先輩!帰りましょう!」
俺が声をかけると、先輩は立ち上がって俺を見た。
「あ、もう終わったんだ。じゃあ帰ろ…って、その髪…」
あぁ、最悪だ。
先輩にこんな姿見られて、カッコがつかない。
俺が落ち込んでいると、彼女の口からは思いもよらない言葉が発せられた。
「へぇ、濡れるとそんな風になるんだね。なんか新鮮…その髪もかっこいいよ」
「えっ…!!」
その言葉を聞いた瞬間、だだ下がりだった俺の気分は一気に元に戻った。
「へへ、そ、そうッスか?」
「うん。私はいいと思うけど」
そう微笑む彼女。
…お世辞かもしれないけど、それでも凄く嬉しい。
我ながらチョロいな、なんて思いながら、先輩と図書室を後にした。
【2023/06/06 最悪】
ある日の下校前。
先輩と一緒に帰ろうと思ったら、うっかり弁当箱を机の横にかけっぱなしだったことを思い出して、急いで教室に戻る。
すると…。
なんとそこで、俺が入っている部活の部長と、俺のクラスメイトが抱き合っていたのだ!
最初は後で部長のことをからかってやろうと思っていたけど、しばらく見ている間に、二人の行為はどんどん激しくなっていった。
ハグからキスへ、キスから…。
俺は一瞬目眩がした。
でも、気になるもんは気になるし、と思って見続けることにした。
その時。
「おーい、どうしたの?」
先輩が俺を心配してやって来た。
しかし、あの場面を彼女に見せるのはどうも…。
「あ、いや、今戻ろうと…」
「あれ、中に誰…か…」
時すでに遅し。バッチリと見てしまったようだ。
「あー、先輩…」
「…すごいね、うん、熱々だね」
彼女は興味津々に二人を見つめていたが、すぐに俺の方を向いて、
「…だけど、あんまり覗き見はよくないよね。ほら、早く帰ろ」
と言った。
いつもの道を先輩と歩くも、なんだかちょっと気まずい。
そりゃそうか、学校であんなシーン見ちゃったんだから。
何か話題はないかと考えていると、彼女が口を開く。
「……もうちょっと見ておけばよかったかしら」
「先輩、割と平気そうでしたね。ああいうの慣れてるんですか?」
口に出してから思った。
俺たち学生なのにそういうことに慣れてたら大問題なんじゃ……。
「うーん、別にそういうわけじゃないけど…あの二人って、付き合ってたんだね」
うちの部長は女子生徒にモテモテなため、学校の中では有名人だ。
相手の方も、部長まででは無いけど人望があるし、そこそこ男子ウケも良かったはず。
その二人が付き合ってるなんて。
「もしかして、みんな知らないんじゃないスか?全然話してるの見た事ないですし」
「へぇ…あ、じゃあ、」
先輩は何か思いついたように俺を見つめる。
そして、そっと俺の耳元で囁いた。
わたしたちだけの、誰にも言えない秘密、できちゃったね。
【2023/06/05 誰にも言えない秘密】
狭い部屋、というお題。
削除されてしまった本の家の少女たちを思い出した。
私は彼女たちがくれたものを、いつまでも忘れない。
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【2023/06/04 狭い部屋】
好きな人の失恋を喜んでしまうのは、
いけないことですか?
【2023/06/03 失恋】