正直になるのって、すごく難しい。
今俺は好きな人から恋愛相談を受けている。
「こんなこと、あなたにしか頼めないの…」
あなたが一番気の置ける知り合いなの。
そんなことを言われて、断れるはずがなかった。
どうやら、俺の同じクラスのアイツが好きらしい。
彼女は俺に、そいつのことを事細かく説明して、
「こういう人って、どんな人がお似合いなのかしら?」
なんて呟く。
悲しげな声色なのに、瞳はどこかうっとりとしていて、俺は喉元まで来ていた言葉を必死に飲み込む。
そいつ、好きな子がいるって言ってましたよ。
一個下の、同じ部活の子だって。この前修学旅行で言ってましたよ。
そんなこと言ったら、先輩は傷つく。
だから言わない。けど、大好きな彼女が報われないのを見るのも辛い。
だけど、もし……
もし、その事を伝えて。
彼女が悲しんでいるところを。
俺のことを好きになってくれたら、そんな悲しい気持ちにさせません!
……なんて、無責任に、馬鹿正直に言えたら。
そんなことを一瞬でも考えた自分自身に、嫌気がさした。
【2023/06/02 正直】
今年も憂鬱な季節がやってきた。
雨自体は嫌いじゃないけど、梅雨特有のジメジメとした感じが苦手だ。
しかも、うちの学校は古い鉄製の脚の机である。
空気が湿った時の、あの鉄のツンとした匂いも私は苦手だ。
…けど。
そんな暗い気持ち、すぐに吹きとんでしまった。
なぜなら…。
私はさっき配られた学校だよりに目を通す。
見出しに『体育祭』と書かれている。ちょうど一ヶ月前に、私の好きな人がリレーのアンカーを務めていた。
その写真が見出しの下に大きく載っていたのだ。
眩しいくらいの笑顔を浮かべている彼。
そんな顔を見ていたら、こっちまで明るい気持ちになって、なんだか梅雨なんてどうでも良くなった。
【2023/06/01 梅雨】
放課後、テニス部の部室に向かおうと歩いていると、ベンチに座っている先輩を見かけた。
俺は動かしていた足を止め、少し考える。
今日一緒に帰りてぇな……けど、なんて声かけよう。
…ここは無難に……。
俺は意識していないかのように歩き始め、彼女の前で立ち止まった。
「先輩!こんにちは!」
俺が呼びかけると、彼女はゆっくり顔を上げた。
「こんにちは」
彼女はにっこりと微笑んで、それまで読んでいた本をぱたりと閉じた。
俺はちょっと息を吸って、気持ちを落ち着かせる。
「……今日、めっちゃいい天気ッスよね!」
「そうね。最近暖かくなったしね」
「ハイ……」
……しまった!会話が終わってしまった。
終わった、っていうか……自分で終わらせてしまった。
もっと何か話を……。
って、俺がしたいのはそこじゃないだろ!
今は世間話なんてどうだっていいんだ。俺が話したいことは……。
すうっと、一回深呼吸をした。
「せ、先輩っ!」
言葉にしてから、ちょっと声大きすぎたか……?なんて思った。
「なに?」
先輩は優しい声色でそう言ってから、俺の目をじいっと見つめる。
どきどき、どきどき、どんどん心拍数が上がっていく。
……えぇい!当たって砕けろ!
「今日、一緒に……か、帰りませんか!?」
【2023/05/31 天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、】
よく友達から「顔に出やすい」と言われる。
俺自身もそう思う。
だから今、俺は大好きな先輩から必死に逃げている。
だって近くにいたら、先輩のこと好きだってこと、絶対気づかれちゃうし。
それなのに、彼女は俺がいくら逃げても追いかけてくる。
「なんで逃げるのよー」
って涼しい顔してる先輩。
理由、言えるわけないでしょ!
俺たちの追いかけっこはまだ続く。
【2023/05/30 ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。】
もっと、あなたのいいところを見てあげればよかった。
もっと、好きって言えばよかった。
もっと、ずっと一緒にいたかった。
【2023/05/29 ごめんね】