真戸

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12/15/2022, 2:12:43 AM

「見て、おれたちの学費が光ってる」
あらゆる風情をぶち壊しにする台詞を吐きながらおまえが笑う。
「あれで誰が得すんだろうな、毎度思うけど」
大学構内に続く並木道のイチョウにぐるぐる巻かれた白い電球の群れを眺めて、俺は溜息をついた。
「デートスポットっていうんじゃないしねえ。クリスマスツリーでもなくてイチョウの木だし」
首を傾げながら苦笑いしていたおまえは、でも、と言葉を続ける。
「こうやって話の種にはなるんだから、まんざら無駄ってわけでも」
「無駄だろ」
「ひどい! せっかくひとつでもいいとこ見つけてやろうとしたのに!!」
「昼行燈、銀杏並木にイルミネーション」
おまえが、もー! と声を上げながらおれを叩く真似をして、俺はけたけた笑いながらそれを避ける。
たぶんとても陳腐でありふれていて風情もクソもないやりとりだけど、俺はこれが嫌いではない。
光れよ学費、と思う。
馬鹿騒ぎとくだらないおしゃべりを引っ張り寄せるために、白々しく、イチョウの木の周りで。

12/14/2022, 4:59:31 AM

あの子の器は壊れてるから、何を入れても無駄だと言われた。

ぼくはどうかしてるから、関わらなくていいよ、と、まるで天気の話でもするみたいにあの子は淡々と言った。

たとえ空洞を通り過ぎるだけでもかまわないから、何かを注ぎたかった。

私の勝手。
別に何も返ってこなくていいと思った。
いつでもやめていい、趣味みたいなものだから。
つらくなったらやめようと思っていた。

いつもみたいに持って行った飴玉を、空洞の中に落とした。
からん、と音がした。しゅわしゅわと吹き出る、青い、サイダーの匂いの泡。

あ、とあの子が小さく声を上げた。

驚いてあの子の顔を見る。
見開いた両目からほろほろと落ちている雫、サイダーの匂い、泡の音。

割れた器は戻らない。
今日のこれは幻かもしれない。
明日には元通りかもしれない。
私のしていることは、虚しい狂気の沙汰かもしれない。

それでも。
私は壊れたこの器に、注ぐ。
私が愛だと信じるものを。