真戸

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あの子の器は壊れてるから、何を入れても無駄だと言われた。

ぼくはどうかしてるから、関わらなくていいよ、と、まるで天気の話でもするみたいにあの子は淡々と言った。

たとえ空洞を通り過ぎるだけでもかまわないから、何かを注ぎたかった。

私の勝手。
別に何も返ってこなくていいと思った。
いつでもやめていい、趣味みたいなものだから。
つらくなったらやめようと思っていた。

いつもみたいに持って行った飴玉を、空洞の中に落とした。
からん、と音がした。しゅわしゅわと吹き出る、青い、サイダーの匂いの泡。

あ、とあの子が小さく声を上げた。

驚いてあの子の顔を見る。
見開いた両目からほろほろと落ちている雫、サイダーの匂い、泡の音。

割れた器は戻らない。
今日のこれは幻かもしれない。
明日には元通りかもしれない。
私のしていることは、虚しい狂気の沙汰かもしれない。

それでも。
私は壊れたこの器に、注ぐ。
私が愛だと信じるものを。

12/14/2022, 4:59:31 AM