明良

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9/7/2024, 1:57:07 PM

気の合う私たちだった。
本音を話せる仲というより、隠すべき本音が似ていたのだ。どこまで隠すべきか、どう本音っぽく同調するか……。有り体にいえば、価値観の一致というのだろう。
この子といると、ちょうどいい助け舟を出してそれにポンと乗れるくらいには気が楽なのにお互い全てを預けるわけなくて、話さない本音もそりゃあると、わかっているのも楽だった。
見た目や雰囲気も似ていたのもあって、ニコイチと呼ばれるくらいには一緒にいるように見えていて、都合が悪くなると、お互いの名前を言い訳に悪びれもなく使い、後の第三者を混じえた会話でそれが判明しようが、やったなあいつ、というより共有しといてくれよ、という気持ちが先に来る。察したけど合わせなかったからバレたわ。ついでに被害者面しといたよ。面白いこと起きたら教えろ。

許せないことが起きた。ふざけている。担任が適当な仕事をして、いい顔して学年主任の頼みなんか聞くから、我々は面倒事どころじゃないことに巻き込まれた。我慢して終わる話では無い。このまま野放しにしておけぬ。
私は久々に怒りに燃えて、抗議しに行った。主任を呼び出し、怒りを抑えて淡々と話す。感情的だと我儘だとながされる。順序を追って、相互の認識の確認を取りながら、落ち着いて。論理的におわったはず。
「うーん。そうなんだけどね、どうにかならない?」
ならない。ならないといったらならないのに何故同じことしか返さない。会話する気がないのか。押し切るつもりだな。たまるか。

放課後を費やした末、なんとか決着はつけた。最後に「また何かあったらよろしくね」と明らかに理解も反省もない調子の良いことを、「失礼します」と言って職員室を出ようとしたところで投げられたので、思わず「いい加減にしろよ」と爆発して出戻りそうになったところを、「またなんかあったら! あったらまた聞いてから決めるので!はい! 失礼しまーす……」と私をあいつが遮ってくれたおかげで頭が冷える。

私たちには珍しく、遅い時間に学校の廊下を歩く。もう日が落ちかけてるじゃないか。空、赤……。
「……こわくなった?」
「ぶっちゃけめちゃくちゃこわかったです」
背後にね、見えたもんね、字幕が。逃がさないって縦書きで。……炎背負ってた気がしてきた。紫の……。
いつもと違って気が抜けたように吐き出している。
「ありがとう、最後で台無しにするところだった」
「いや、それ以外の私、居ただけだからね」
「あんたビビって何も言わなかったもんね」
「普通あそこまで強気でいかないんだよ!」
「それでよかったんだけどな、口挟んだら逆に歯止め役になって先生にとってやりやすくなるじゃん」
「……コワ〜。もう絶対怒らせない……」
「今更あんたには簡単に怒らないよ、まだ一緒にいたいしね。」
「この火力の人間が他人じゃなくて友達なのありがて〜」
「調子いいくせに意外と事勿れ主義よね」
「そっちが黙ってるだけで常に過激なんだよな〜」

まあ何もかも合致するわけがなく、同じ事に怒ってもこんなこともあるのだ。私たちが同じ1で、1×1が同じ1になるから一緒にいるのでは無い。どちらかがもつ1が増えたら1引いてやり、0にして平和になんとかやっていくのだ。
誰もいない校舎を、「大人しい生徒」同士の私たちは、笑い声を上げながら踊るように歩き出した。

【踊るように】

9/6/2024, 10:09:48 AM

ATMの手数料がかかり始める時間
夕方アニメに間に合わない時間
アーカイブが残らない推しの配信がみれない時間
そんな時が告げられる度に世の中の「もう遅い」時間に気づいて、もうこの生活しかできない仕事辞めたいと思う。

【時を告げる】

9/5/2024, 4:43:35 PM

昔拾ったきれいな桜貝は、どこからきていたのだろう

【貝殻】

9/4/2024, 11:15:41 AM

今日は私が受け持つ生徒との面談である。
その生徒(以下生徒Aとする)は、普段は特に問題行動もなく、成績も安定していて、苦手科目も壊滅的というほどでもない。そもそも苦手科目を受験科目にしない進路選びをする堅実なのであまり心配はしていなかった。

「うーん、これといってないんですよねー……。なんか、もういいかなって」
教師生活にも慣れたのにすっかり忘れていた。こういった一見手がかからない子が一番心配になることに。
「何がもういいんだ?」
「兄もいってましたし、とりあえず目標ないけどM大にするってお話したじゃないですか」
「そうだったな、他に行きたいところができたのか?」
「実は前からあったんですけど、一人暮らしさせられるほど余裕ないからと言われまして。じゃあ似た学科があって近くにあったのでそこ提案したら、否定はされませんでしたけど『どうしてここなの?』『似た学科ならこの大学の方がよりレベルが高いんじゃない?』『結果的にやりたいことのためにはブランドも大事だと思うの』とかさりげなく? 僕の意思で自分らも納得出来る選択にさせようと感じるというか……。お金出してもらうんだし当たり前かもしれないんですけど、名前じゃなくてオーキャンみて決めたことで、冬に一緒に来てもらって説明してみたりしたけどだめで、なんか」

もう、わかんなくて。尻すぼみになっていく生徒Aの声から、珍しく涙を目に湛えているのを察して敢えて顔は見ずにiPadで開いた大学の資料に目を向ける。

親御さんの「せっかく上の大学に十分いけそうなのに」「勉強から逃げるためなのではないか」「就活の大学フィルターで苦しまないように」などといった考えは同じ親としてはよくわかる。しかし、私は親の指示に従い、自身で選ばなかった道は、結局最後まで割り切って自分事とは思えず何もかも失敗して、自分で決めたことになっていて人のせいにもできなくなった身でもある。
今、生徒Aは親の説得と一緒に自分が見つけたきらめきすら見失いかけている。

「今探してみたけどな、有名大ばかりで滑り止めは決めてなかったよな?」
顔を上げた生徒Aに続ける。
「ここなら、言ってたこともできるし、偏差値もお前なら普通に受かるだろうが馬鹿にはできない。有名大程じゃないが歴史もあって名もあるし就職率も良い。どうだ?」
こんなこと言って、生徒Aの将来を考える一人としてはそのまま背中を押すようなこともできず、折衷案を探すばかりだ。

立地もめちゃくちゃいいぞーとiPadを渡すと、生徒Aは気が抜けたように薄く笑った。
「とりあえず第一志望としてM大は受けます。滑り止めはここを受けさせてもらうように言ってみます」
先生が言ったといえば、納得すると思います。といって、その日は解散した。

いつ光るか分からない石ころを磨かせるより、綺麗なものを最初から渡したいのが親ってものかもしれない。しかし、自分で選びとったものほど人は大事にするし、きらめいてみえるものだ。そうじゃなきゃ、割れようが安く売られようがどうでもよくなる。そして、そうなったのは自分のせいだと、ずっと拭えない、戻せない過去にうっすらと後悔が残り続けるものだ。

【きらめき】

9/3/2024, 3:30:46 PM

人の気持ちの話をしているのに、自分の中では些細なことだと決めつけて傷を大きくすることだけはしたくない。

【些細なことでも】

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