気の合う私たちだった。
本音を話せる仲というより、隠すべき本音が似ていたのだ。どこまで隠すべきか、どう本音っぽく同調するか……。有り体にいえば、価値観の一致というのだろう。
この子といると、ちょうどいい助け舟を出してそれにポンと乗れるくらいには気が楽なのにお互い全てを預けるわけなくて、話さない本音もそりゃあると、わかっているのも楽だった。
見た目や雰囲気も似ていたのもあって、ニコイチと呼ばれるくらいには一緒にいるように見えていて、都合が悪くなると、お互いの名前を言い訳に悪びれもなく使い、後の第三者を混じえた会話でそれが判明しようが、やったなあいつ、というより共有しといてくれよ、という気持ちが先に来る。察したけど合わせなかったからバレたわ。ついでに被害者面しといたよ。面白いこと起きたら教えろ。
許せないことが起きた。ふざけている。担任が適当な仕事をして、いい顔して学年主任の頼みなんか聞くから、我々は面倒事どころじゃないことに巻き込まれた。我慢して終わる話では無い。このまま野放しにしておけぬ。
私は久々に怒りに燃えて、抗議しに行った。主任を呼び出し、怒りを抑えて淡々と話す。感情的だと我儘だとながされる。順序を追って、相互の認識の確認を取りながら、落ち着いて。論理的におわったはず。
「うーん。そうなんだけどね、どうにかならない?」
ならない。ならないといったらならないのに何故同じことしか返さない。会話する気がないのか。押し切るつもりだな。たまるか。
放課後を費やした末、なんとか決着はつけた。最後に「また何かあったらよろしくね」と明らかに理解も反省もない調子の良いことを、「失礼します」と言って職員室を出ようとしたところで投げられたので、思わず「いい加減にしろよ」と爆発して出戻りそうになったところを、「またなんかあったら! あったらまた聞いてから決めるので!はい! 失礼しまーす……」と私をあいつが遮ってくれたおかげで頭が冷える。
私たちには珍しく、遅い時間に学校の廊下を歩く。もう日が落ちかけてるじゃないか。空、赤……。
「……こわくなった?」
「ぶっちゃけめちゃくちゃこわかったです」
背後にね、見えたもんね、字幕が。逃がさないって縦書きで。……炎背負ってた気がしてきた。紫の……。
いつもと違って気が抜けたように吐き出している。
「ありがとう、最後で台無しにするところだった」
「いや、それ以外の私、居ただけだからね」
「あんたビビって何も言わなかったもんね」
「普通あそこまで強気でいかないんだよ!」
「それでよかったんだけどな、口挟んだら逆に歯止め役になって先生にとってやりやすくなるじゃん」
「……コワ〜。もう絶対怒らせない……」
「今更あんたには簡単に怒らないよ、まだ一緒にいたいしね。」
「この火力の人間が他人じゃなくて友達なのありがて〜」
「調子いいくせに意外と事勿れ主義よね」
「そっちが黙ってるだけで常に過激なんだよな〜」
まあ何もかも合致するわけがなく、同じ事に怒ってもこんなこともあるのだ。私たちが同じ1で、1×1が同じ1になるから一緒にいるのでは無い。どちらかがもつ1が増えたら1引いてやり、0にして平和になんとかやっていくのだ。
誰もいない校舎を、「大人しい生徒」同士の私たちは、笑い声を上げながら踊るように歩き出した。
【踊るように】
9/7/2024, 1:57:07 PM