ようやく涼しくなってきた。夜にはコウロギが鳴き始め、道端には枯れ葉が落ち始める。
ようやく秋の訪れを告げ始めているが、温暖化の影響で秋もすぐに終わってしまうらしい。ゆえに秋を感じる時間もほとんどなく冬が来る。
去年はあまり秋を感じられなかった。では今年はいったいどれぐらい感じられるのだろうか。
男は誰もいない公園のベンチに一人座っている。
服はバブル時代を想像させるような古びた服をまとい、その傍らには銘柄のリュックサックが置かれていた。帽子なら出ている長い髪はバサバサで無精ひげも伸びている。
いったいこの男はなにものだろうか?
少女は男に思わず話しかけた。
「こんにちわ。おじさん」
「こんにちわ。お嬢さん」
すると男が笑顔を浮かべる。
「おじさんはこんなところでなにしているの?」
「ちょっと休憩さ」
「休憩? 休憩終わったらなにするの?」
「歩き出すさ」
「歩き出す? どこへ?」
「さあね。僕は旅人だからね。とくに目的もなくいろんなところへ行くんだよ」
「へえ。楽しそう! 私も旅したいなあ」
少女は目を輝かせながら男を見た。
すると男は少女の頭を優しく撫でるとリュックサックを背負うと立ち上がる。
「もう行くの?」
「ああ。行くよ。僕の旅はまだまだ続くからね」
男はじゃあねと手を降って歩き出した。
もう日が沈みかけている。
さてと今日はどこに泊まろうかなぁと考えながら男は夕暮れ時の街を歩き出した。
「まあ。のんびり行こうか。ぼくの旅は続くのだから」
かつて写真はモノクロだった。白と黒で描かれた写真のなかの人たちはどこかはかなげに感じられ、本当に生きていたのかと疑いたくもなった。
ところが近年技術が発展したことにより、モノクロ写真はカラーへと変えることができるようになった。するとモノクロだと生命を感じることのできなかった彼らが生き生きとしているではないか。
たしかに生きていた。
たとえ残酷な時代の中で必死に生きていたことを知ることができたのだ。
私は感動した。
気づけば涙が溢れてとまらない。
ここにいる。
ちゃんと生きていたんだね、
見ることのなかった父も
永遠なんてないけれど、限りある命の中で自分にできることをしていくだけだ。