ざあざあと、波を砕く音が
ひゅーひゅーと、夜風を切る音が耳をつんざく
文明のない原初の海原で、わたしは空を見上げていた。
煌々とした星たちが、
月明かりだけが、わたしの進路を照らしていた。
思えば一年前も曇天であった。
曇り空、ホテルの上階で、望郷の念にかられていた。
曇り空は晴れることなく、大粒を降らした。
ぽつぽつと、ぽつぽつと。降り止まず、降り止まず。
ぼろぼろの傘をさして、なんとか一周、歩いてきた。
あばら屋で、雨音に目覚めさせられた。
土砂降りだ。
手元にあるのはぼろ傘だけ。
太刀打ちなんて、もうできない。
それでも、傘の形を保つかぎり。
嵐が過ぎるのを、じっと、待つのだ。
ねぐせ。が刺さる夜だった。
突き放すようなあの人の発言からは、でも、どうしようもないくらいの優しさを感じた。
だから、何に怒ればいいのかわからない。
その優しさは、わたしを救おうとした優しさで、でもわたしを殺す優しさだった。
眠れない夜だ。ベッドの片隅、刺さりもしない、好きでもない失恋ソングを垂れ流す。
別に失恋したわけではない。
から回って、失敗して、叶わぬと知りながら追いかけていただけ。
だから、振る舞うほどは、傷つきはしなかった。
もっと辛いことは、経験したことがあった。
だけど、本当に、眠れない夜だった。
今まで話してきたことが全部嘘だった気がして。
あの日助けてくれた優しさは、今日の優しさのような、純粋にわたしを救おうとする優しさだった。
でも、今日の優しさが、わたしを欺瞞へ突き落とした。
思えば無理に続けていた関係だったのかもしれない。
今まで積み重ねてきたものが、全部嘘のように感じられた。
もう何も残っていなかった。
何も残っていないから、眠る気力もなかった。
久しぶりに、本気で好きになった人だった。
人の恋愛ばかり助けていたし、自分に風向きがくるかと思ってた。
イヤフォンから流れる日常革命が、右から左へ突き抜ける。
わたしの恋は、終わったのだ。
台風一過の、晴れ渡った、風のつよい日だ。
あの子と別れてからもう9ヶ月とかが過ぎて、でも心の片隅にはいつもあの子がいて、忘れたくて、現実から目を背けるために、マッチングアプリをやり込んで、女子大に足を運んでって、そういう生活ばかり送っていた。
今日も同じで、女子大に友達と顔を出して、でも心の片隅にいるあの子が邪魔をして、成果も出さずに帰る所だった。
友達は俺を置いて、ねんごろな女の子とダブルデートをするらしい。
必死に女の尻を追っかけてる自分がバカみたいだ。
邪魔をしないように、気を遣わせないように帰る、と言って、電話を取り出した。
台風一過の、晴れ間に霞んだ雲のかかる、風のつよい日だった。