『もう二度と』
朝──まだ寝ている体が、こんな言葉を耳に入れたらしい。
「聞いて!おれ彼女できた!!」
その声の持ち主は誰かと辺りを見渡せば、そこには彼がいた。彼──言葉を変えるなら、「好きだった人」であろう。恐らく、まだ寝ぼけているから、そんな言葉が聞こえたように思っているのだろう。勘違いだ。そのはずだ。でも、続く声は「おめでとう」だった。今ので目が覚めた気がする。多分これ、夢じゃない。
ああ、そっか。今、私、失恋したんだ。なるほど、そうなのか──うん、夢だ、多分。
昨日までの彼に、そんな様子はなかった。おかしいと思うのだ、きっと一目惚れでもされて、その勢いで告白されて、ちょっと舞い上がっちゃって大して知らない人の告白にOKしちゃったんだ。彼なら有り得る。やりそうだ。
彼は私と目が合うなり、同じように彼女ができたと報告した。うん、聞こえてたけど。夢、じゃなかった。
「おめでと、末永く幸せにね」
はあ、こんなつらい朝も久しい。相手の名前くらい聞いてやりたかったけど怖かった。勝てない相手の名前なんて知っても意味ない。自分が惨めになるだけだ。
こんなんなら、もう二度とあなたを好きになったりはしない。
『君と見た景色』
それは、教室の窓で切り取られた空。
夕日が傾いて、僅かに暗い教室。
それは、昇降口で見た夜空。
星は瞬き、暗闇でも明るい君。
それは、帰り道を包んだ寒空。
私の涙さえ包み込んだ君の温もり。
──それは、駅前の自販機。
暗闇の向こうで、「またね」という君の声。
『魔法』
もし、魔法があったら。
きっと願いを全て叶えてもらうだろう。
やりたいこと、全部やるだろう。
何か、欠けている気がする。
そうだ、「できない」という悔しさ。
「やってやる」という意気込み。
生きがい。
それは、私だけの生きている証。
もし、魔法があったら。
魔法がない世界に変えてしまうだろう。
『誰も知らない秘密』
ずうっとあなたを見てるってこと。
恋か、狂気か、わからないけどね。
『やさしい嘘』
「ねえ、私のこと好き?」
「………ううん、もう、好きじゃない」
「そっか、………ねえ──」
「ばいばい」
あなたを傷つけないための嘘。
でも本当は、いちばん傷つける嘘。
やさしい嘘なんて、ない。誰も、得をしない。
だから、自分だけが損をしようとする。
それがいちばん、やさしくない。