『もう二度と』
朝──まだ寝ている体が、こんな言葉を耳に入れたらしい。
「聞いて!おれ彼女できた!!」
その声の持ち主は誰かと辺りを見渡せば、そこには彼がいた。彼──言葉を変えるなら、「好きだった人」であろう。恐らく、まだ寝ぼけているから、そんな言葉が聞こえたように思っているのだろう。勘違いだ。そのはずだ。でも、続く声は「おめでとう」だった。今ので目が覚めた気がする。多分これ、夢じゃない。
ああ、そっか。今、私、失恋したんだ。なるほど、そうなのか──うん、夢だ、多分。
昨日までの彼に、そんな様子はなかった。おかしいと思うのだ、きっと一目惚れでもされて、その勢いで告白されて、ちょっと舞い上がっちゃって大して知らない人の告白にOKしちゃったんだ。彼なら有り得る。やりそうだ。
彼は私と目が合うなり、同じように彼女ができたと報告した。うん、聞こえてたけど。夢、じゃなかった。
「おめでと、末永く幸せにね」
はあ、こんなつらい朝も久しい。相手の名前くらい聞いてやりたかったけど怖かった。勝てない相手の名前なんて知っても意味ない。自分が惨めになるだけだ。
こんなんなら、もう二度とあなたを好きになったりはしない。
3/24/2025, 7:52:01 PM