千歳緑

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3/28/2026, 2:32:32 PM

見つめられると

 

 泣いてしまうから
 
 僕はただ、前だけ向いた



 僕より何年も戦場を駆け抜けた貴方は
 人を殺した事実に押し潰されそうな僕を
 決して『軟弱者』とは言わなかった

『お前はただ、前だけ見てろ』

 貴方がそう言った
 僕の他に何人にも言った
 死んで欲しくないからだって、わかっていた

 助からないとわかっていた
 だから振り替えられなかった
 僕だって、貴方に死んで欲しくなかったのに



 でも

 一瞬合った目が、言っていた

『前だけ見てろ』

 それはイコール、『生きろ』の意味だから



 走った
 叫びながら、泣くのを堪えながら

 背中に貴方の視線を感じながら
 
 どんなに罪を重ねても
 たった一人が『生きろ』と言うなら



 振り返らない
 貴方の、もう光が灯らない目を見ない



 

3/27/2026, 1:02:37 PM

My Heart



 もうすぐ、俺の心臓は停まる。



 悔いはない。怖くもない。
 そうだったなら戦場で生きて来れなかった。

 目の前の人間を
 殺して、殺して、殺して
 それが祖国の為だと信じて生きてきた。  
 それでも、死んで欲しくなかったから
 家族に、仲間に、友人に

『前だけ見てろ』と言い続けた。

 ほら。今も通過した。
 俺を見て、一目で助からないと判断して、行った。



 …それでいい。



 振り返るな、前だけ見てろ。
 死んだ奴ら、殺した奴ら。
 還ってこない奴らの為に足を止めるな。

 行け。行っちまえ。

 今、生きている事にだけ集中しろ。
 意味なんざ後から、いくらでも付けろ。
 生き残った事を罪にするな。

 その背中だけ、見せてくれたら良い。



 未来へ駆ける背中達を最期に見て
 俺の心臓は、停まった。

 

3/26/2026, 1:10:20 PM

ないものねだり 
※欠損表現



「これ、ちょうだい」

 私は右足を差し出した。

「これ、ちょうだい」

 私は左腕をもぎ取った。

「これ、ちょうだい」

 私は左目をくり抜いた。

「これ、ちょうだい」

 私は内臓の一つを抜き取った。

「これ、ちょうだい」

「駄目」

 私は初めて拒否した。
 貴方が指差したのは胸。心臓。もっと、奥。

 心。

「これはあげられないの」

 貴方は泣いた。
 大きな癇癪声をあげて、子どもみたいにぼろぼろと。



 良かった。ないものねだりじゃなくて。



 私が欲しかったのは、貴方の涙だった。

3/25/2026, 2:20:17 PM

好きじゃないのに

「アンタって、本当はシチュー好きじゃないでしょ?」

 捨て子だった俺を拾ってくれた人。その内の一人、『長女』にあたる女の子の得意料理がシチューだった。

 というか、それしかできない。洗濯も裁縫も掃除もできる、むしろ集団で生活していた時は司令塔となって『弟』や『妹』に指示を出していたしっかり者だか、料理だけは苦手だった。
 理由としては、極貧生活が続いたせいで不味いのハードルが下がりまくっているようだった。
 食えれば何でもいい。実際、そのシチューの中身だって牛乳はぎりぎりまで薄め、具は道端で採ってきたきのこや雑草。肉は滅多に入らない。
 それでも、味は良かった。
 他の料理は不味いのに。
 以前、理由を聞いてみた。

 あの人が、好きだって言ったからと。

『長女』が俺達の『父親』に、それ以上の想いを抱いていることは、当人達以外が全員知っていた。

「こればっかり作っていたから、シチューだけは美味くなったんだよな、きっと」

『父親』は苦笑いしながら、俺の杯に安酒を注いだ。

「酒のつまみにならねぇんだよなぁ」

「おう。俺も呑むようになって気づいたわ」

 カッと熱くなる喉。俺は切ったサラミとチーズを同時につまんだ。

「で、何で嘘吐いたんだ?」

「嘘、つーか……まぁ何でも良かったんだよ」

 気まずそうに目線を外すと、ぽつりぽつりと話してくれた。

「材料費が安くて、栄養がとれて、ついでに一度で大量に作れて………ちょっと練習すれば、子どもでも作れる料理なら、何でも」

「…あ」

 何でもやりたがりな『長女』。
 仕方ないな、と言いながら、頼られると嬉しいのを隠しきれない。
 一時は二人きりで暮らしていた。
 きっと、今と変わらないなら…。

「アイツには、内緒な」

 照れくさそうに人差し指を立てる『父親』。
 俺は了解、と言いながら、杯と杯を合わせた。

3/24/2026, 12:30:36 PM

ところにより雨

 桜が咲いていた。
 綺麗だな、と思いながらブラウン管の画面へ目を向ける。
 内地(本州のこと)はもう満開か、と思いきや、よく見ると去年の映像で肩を落とす。
 札幌は朝から雨、いやみぞれである。
 雪じゃなくて花びらが混ざってくれたらいいのに。
 と思いながらカップの中身を空にした。次は何を飲もう。
 暦では春なのに、ここは寒くて暗い。
 部屋の中なのに、ストーブは片付けてしまった。
 テレビでは他所の桜。

 よし。
 被っていた毛布を跳ね除けると、部屋の戸棚からとっておきを取り出した。
 桜のリキュール。塩漬けの本物が入っている。
 紅茶を淹れて、数滴垂らそう。一輪だけの小瓶をテレビの横に並べよう。
 外は雨だけど、待ちきれない花見をしよう。
 機嫌は自分で取らないとね。

 クッキーの皿を用意している間に、画面は過去から現在へと変わっていた。
 向こうも大雨。
 桜雨だった。
 

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