君が笑顔で指さす先に
いつだって正しく僕の未来があった
この重い体を動かすには
君の意思が必要だ
僕と君は二人で一つ
君は僕の魂そのものだった
けれどもある日
僕の魂はこの体から転がり落ちて
何処かへ行ってしまった
それ以来
簡単なことが難しくなった
見えていたものが見えなくなってしまった
何処へも行けなくなってしまった
どうかどうか、
君にもう一度会えますように
脳が醒めて血が巡り
体は軽く心は満たされ
この世界を縦横無尽に
飛び回れる日がきますように
◼️不完全な僕
体臭がフェロモンだというのは
確かアパレル雑誌で読んだのだったか
最良の子孫を残す為に
自分の遺伝子から程良く遠い遺伝子を
嗅ぎ分けるんだとか
あぁ、道理で。 …道理で?
優しくて甘やかな匂いがすると
初めて会った日から思っていた
柔軟剤やシャンプーとは違う
肌から香る彼本来の匂い
焦ったり困ったりするとさらに強く匂い立つ
可哀想なくらいに
彼は代謝が良すぎるから
とにかく汗をかく
少しの運動で汗の玉が浮いて
走れば滴り落ちる綺麗な雫
彼はいつもそれを欠点として扱った
「ねぇ、俺臭い?」
臭くないよ。
「本当〜?」
本当。
"最良の子孫を残す為に"
「今度香水とか買ってみようかなー」
制汗スプレーで十分!
"自分の遺伝子から程良く遠い遺伝子を"
「ねっアイス食べて帰ろ。
遠回りになっちゃうけどさ」
遠かろうが近かろうが…
「何?」
なんでもない。
この匂いに誘われているのは俺だけでいい
◼️香水
アポ無しで来るなと
何度言っても聞きやしない
悪態をついて追い返すつもりが
いつも飄々とかわされて侵入を許してしまう
駅から徒歩10分風呂トイレ別日当たり良しのワンルーム
私の聖域に通い猫のようにフラリと現れては
嵐を呼び込んでくるトラブルメーカー
洗面台の歯ブラシが2本
コップの中でぶつかり合って
苦笑いみたいな軽やかな音を立てる
私たちの関係に
名前はまだ、無い
◼️突然の君の訪問。
「じゃあキスして
そしたらちゃんと忘れるから」
その一言で親友は
刺されたような苦悶の表情を見せた
自分はフラれたんだ
唯一無二の親友に
でもタダで終わらせてはやらない
せめて最後に思い出をちょうだい
大事に大事に育ててきた
この恋を
上手に殺してみせるから
だからせめて最後にキスして
死の瞬間まで忘れられないやつをして
それくらい許してよ
◼️さよならを言う前に
あの日の衝動を嘘にしたくはないと
彼女が言った
ああ、その通りだと私は思った
理想の未来を掴む為
今この瞬間ただ一点に注がれる
怖いくらいの集中力とその目線
まだ彼女には情熱が宿っている
燃えている、美しくて、羨ましい
時が経っていつかあの日の衝動を忘れても
時代が笑っちゃうくらい大変革を起こしても
花の色がいたずらに移り変わっていったとしても
まだ追い続ける青い炎
大事な大事な出涸らしの夢
◼️いつまでも捨てられないもの