[誰よりも、ずっと]
誰よりもずっと見てきた。
動くものも、動かないものも。
移ろうものも、停滞したものも。
時に見守り、時に手を貸し。
人が来て。去っても。
ずっと見てきた。
だから、誰よりも分かっている。
誰よりも思っている。
この世界、そろそろ終わらせないと。
[これからも、ずっと]
これからも、ずっとこのままだと思っていた。
眠る君の髪に触れて。
白い頬と。長いまつ毛と。規則正しく上下する胸と。
耳を澄まさないと分からないほど、ささやかな呼吸を聴いて。
ずっと、このままでいて欲しいと思っている。
なのに。
どうしていつも目を覚ましてしまうの。
君の時間は、もう残り少ないのに。
だから、何度も魔法をかけてるのに。
君はそれを打ち破ってしまうの。
「これからも、ずっと。あなたと話をしたいから」
君はそう言ったけど。
私と君じゃあ、寿命が違いすぎるのよ。
[沈む夕日]
沈む夕日が、広場を照らしている。
遊具はない。誰もいない。
ただ、左側に小さな舞台がある広場。
そんな、淋しくも温かみのある絵は、音楽室の隅にひっそりと飾ってあった。
誰も居ないと思っていた舞台の影に、小さな人影があると気付いたのはいつだったか忘れたけど。ピアノの練習をする僕を見てくれているような気がして、少し嬉しかったのを覚えている。
放課後。夕陽に照らされた音楽室で、僕はピアノの練習をする。
たったひとりの小さな観客に、僕の拙い音はどう聞こえているのだろう。
分からないけど、いつまでも沈まない夕日は、僕の音を静かに受け止めてくれた。
「今日も聴いてくれてありがとうね」
僕は、絵にお礼を言って帰り支度をする。
外はすっかり暗かったけど。いつの間にか舞台の端に座ってこっちを見ている少年は、今日も暖かな夕日に照らされていた。
なんだか絵の淋しさが減った気がする。
それが僕のピアノの影響なら、ちょっと嬉しい。
[君の目を見つめると]
君の目を見つめると、何を言いたいのかなんとなくわかる。
眠いとか。お腹空いたとか。
暇だとか。嬉しいとか。悲しいとか。
でも。今だけはその感情が読めなかった。
「なんで、なんで分かってくれないの……?」
目に涙を溜めて、頬を染めて。
「なんでって……」
分からない。何も。目に感情があるのは分かるのに。
そのパターンは。
何度読み込んでも、エラーが返ってくるのだ。
[星空の下で]
夜の屋上。
僕はど真ん中に寝転がって空を見ていた。
吐く息が白い。背中は冷たい。でも、空の星はとても綺麗だ。
満点の星空はチラチラと瞬いて、今にも降ってきそう。
最高の星空だ。
これを誰かと共有できたら。この中に埋もれている星座の話とかできたら。
「楽しそうなんだけど。なあ」
僕の他に生体反応がないこの街で、それはちょっと叶わない。
ああ、残念。