龍那

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[沈む夕日]

 沈む夕日が、広場を照らしている。
 遊具はない。誰もいない。
 ただ、左側に小さな舞台がある広場。
 そんな、淋しくも温かみのある絵は、音楽室の隅にひっそりと飾ってあった。

 誰も居ないと思っていた舞台の影に、小さな人影があると気付いたのはいつだったか忘れたけど。ピアノの練習をする僕を見てくれているような気がして、少し嬉しかったのを覚えている。

 放課後。夕陽に照らされた音楽室で、僕はピアノの練習をする。
 たったひとりの小さな観客に、僕の拙い音はどう聞こえているのだろう。
 分からないけど、いつまでも沈まない夕日は、僕の音を静かに受け止めてくれた。

「今日も聴いてくれてありがとうね」
 僕は、絵にお礼を言って帰り支度をする。
 外はすっかり暗かったけど。いつの間にか舞台の端に座ってこっちを見ている少年は、今日も暖かな夕日に照らされていた。

 なんだか絵の淋しさが減った気がする。
 それが僕のピアノの影響なら、ちょっと嬉しい。

4/7/2023, 10:24:30 AM