龍那

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3/30/2023, 11:34:17 AM

[何気ないふり]

 私は知っている。
 買い出しに行くと、あの子の好きな飲み物があることを。
 隙間風が当たる席には自分が率先して座ることを。
 歩く時はあの子の右側に居ることを。
 なんだかんだで、あの子をしっかり見てることを。

 何気ないふりをしてるけど、先輩はあの子が大好きで。
 見ていると柔らかい笑顔を見せることも。
 
「……いや、なんで告白しないんですかね?」
「したらバレるからじゃない?」
「いいじゃないですか! もう私達にはバレてるんですよ!?」
「僕に言われてもなあ」

3/29/2023, 10:14:00 AM

[ハッピーエンド]

 コードネーム:ハッピーエンド
 何が起きても、全て「良い結果」に捻じ曲げる能力を持つ少年。
 発動条件は彼が眠っていること。

「それで、彼は永遠に眠り続けてるって訳だ」
「この国の幸福に必要だからね」
「なるほど。それじゃあ」
「“彼の幸せ”のために、起きてもらいましょう」

3/28/2023, 10:56:04 AM

[見つめられると]

「やめてくれ」
 彼はそう言って、私の目を手で覆った。
「なんで」
 私はその手をどかして、彼の目をじっと見る。
 明るいチョコレート色の目が、狼狽えるように逸らされるのを阻止する。
「なんで嫌なの」
「だって、見つめられると。……その」
「うん」
 まっすぐ見つめて頷くと、彼の言葉はごにょごにょと小さくなる。
 目を逸らして。俯いて。蹲るように身体を小さく縮こめて。
 小さくなってーー。

「猫になる呪いが発動するから……!」
「だって可愛いじゃん!」

 全力で私にモフられる猫がいた。

3/27/2023, 11:38:34 AM

[My Heart]

「なんだこれ」
 手袋を外し、クッキー缶の中から見つけた1枚を取り出した。
「My Heart……?」
 作った覚えのないそれに首を傾げる。
 この缶の中には私が作ったクッキーが入っている。
 書いた文字は「Eat me」しかないはずなのに、つまんだそれには「My Heart」と書かれていた。

 少し考える。覚えがない。
 胸に手を当ててみるが、心当たりもない。
 作った覚えもないのはなんだか気味悪かったが。
 そのクッキーは確かに私が作ったものだというのは分かる。

 とりあえず口に放り込んで飲み込む。
 それはいつも通りの味だったけど。

 突然、少女の影が脳裏に蘇った。
 心に感情が、灯った。

「ああ……そうだ」
 私は。彼女を忘れようとしていたんだと気付いたけど。
 鼓動を打つこの胸の高鳴りは、二度と忘れられる気がしなかった。

3/26/2023, 1:33:14 PM

[ないものねだり]

 手に入らないと分かってるけど。
 欲しいと思ってしまったのです。

 笑顔を。言葉を。瞬きを。
 全てコピーして、組み込んでしまったら。
 髪を。瞳を。心音を。
 全て真似て、作り直してしまったら。

 私はあの子が秘めてた恋を、再現できたりしませんか。

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