[何気ないふり]
私は知っている。
買い出しに行くと、あの子の好きな飲み物があることを。
隙間風が当たる席には自分が率先して座ることを。
歩く時はあの子の右側に居ることを。
なんだかんだで、あの子をしっかり見てることを。
何気ないふりをしてるけど、先輩はあの子が大好きで。
見ていると柔らかい笑顔を見せることも。
「……いや、なんで告白しないんですかね?」
「したらバレるからじゃない?」
「いいじゃないですか! もう私達にはバレてるんですよ!?」
「僕に言われてもなあ」
[ハッピーエンド]
コードネーム:ハッピーエンド
何が起きても、全て「良い結果」に捻じ曲げる能力を持つ少年。
発動条件は彼が眠っていること。
「それで、彼は永遠に眠り続けてるって訳だ」
「この国の幸福に必要だからね」
「なるほど。それじゃあ」
「“彼の幸せ”のために、起きてもらいましょう」
[見つめられると]
「やめてくれ」
彼はそう言って、私の目を手で覆った。
「なんで」
私はその手をどかして、彼の目をじっと見る。
明るいチョコレート色の目が、狼狽えるように逸らされるのを阻止する。
「なんで嫌なの」
「だって、見つめられると。……その」
「うん」
まっすぐ見つめて頷くと、彼の言葉はごにょごにょと小さくなる。
目を逸らして。俯いて。蹲るように身体を小さく縮こめて。
小さくなってーー。
「猫になる呪いが発動するから……!」
「だって可愛いじゃん!」
全力で私にモフられる猫がいた。
[My Heart]
「なんだこれ」
手袋を外し、クッキー缶の中から見つけた1枚を取り出した。
「My Heart……?」
作った覚えのないそれに首を傾げる。
この缶の中には私が作ったクッキーが入っている。
書いた文字は「Eat me」しかないはずなのに、つまんだそれには「My Heart」と書かれていた。
少し考える。覚えがない。
胸に手を当ててみるが、心当たりもない。
作った覚えもないのはなんだか気味悪かったが。
そのクッキーは確かに私が作ったものだというのは分かる。
とりあえず口に放り込んで飲み込む。
それはいつも通りの味だったけど。
突然、少女の影が脳裏に蘇った。
心に感情が、灯った。
「ああ……そうだ」
私は。彼女を忘れようとしていたんだと気付いたけど。
鼓動を打つこの胸の高鳴りは、二度と忘れられる気がしなかった。
[ないものねだり]
手に入らないと分かってるけど。
欲しいと思ってしまったのです。
笑顔を。言葉を。瞬きを。
全てコピーして、組み込んでしまったら。
髪を。瞳を。心音を。
全て真似て、作り直してしまったら。
私はあの子が秘めてた恋を、再現できたりしませんか。