[好きじゃないのに]
好きじゃない。
ずっとそう言ってるし、その気持ちは一生変わらないと信じてる。
なのに友達はおすすめだと言う。
赤い頬が素敵で。
太陽がよく似合っていて。
みんなにも好かれているし。
当たり前のような顔して近くに居る。
きっと食わず嫌いなだけだよ。とよく言われる。
一度良さが分かれば、あとはあっという間だよって。
「いやだから、トマト好きじゃないんだって!」
「オムライスにケチャップかけながら言うセリフじゃない」
「それはそれ、これはこれだよ!!」
[ところにより雨]
ところにより、とは。
地域の一部。部分的にそんな場所もある。みたいな感じだ。
「--よし」
残ったシミをペットボトルの水で洗い流して、頷いた。
傍には気を失った男性。ぐったりしてて顔色も悪いが、命に別状はないだろう。
服に血が付いてるが、盛大に転んだからだ。そう言うことにしてある。
腹部の傷も、もう少ししたら塞がるだろう。
気付いたのは偶然だったけど、犯人には感謝しよう。
明日のニュースにならないのは、俺からのささやかなお礼だ。
いいことをした。
「それじゃ、ご馳走様。もし思い出したら、犯人は自分で探してね」
そう言い残して、通り魔事件の現場を後にした。
あの路地裏が濡れてるのは雨が降ったんだ。天気予報でも「ところにより雨」って言ってたし。
でも、実際降ったのが血の雨だったと知ってるのは俺だけだ。
それでいい。
[特別な存在]
兄さんは特別な存在だった。
幼い頃から魔導書を読み。剣術を習得し。周りの大人を驚かせた。
飛び級で学園に入り、最年少で卒業した。
魔法が好きだった兄はそのまま研究職に進み、日常的な道具から研究器具まで、様々分野に魔法を浸透させた。
そんな兄さんのノートを見たことがある。
色んなことが書いてあった。
日記、魔術の覚え書き、母さんのレシピ。地名。
高層ビル。赤い鉄塔。高架を走る車と、新幹線の絵。
ぐしゃぐしゃに塗りつぶされた文字は読めなかったけど。
隅には「この世界を目指す」と見覚えのある文字で書いてあった。
「そっか。そうなんだね」
僕はそのノートをそっと元の場所にしまって。
今回も、彼の助けになれるよう頑張ろうと決めた。
だって彼は、昔から「私」の特性な存在なのだから。
[バカみたい]
テストプレイを兼ねて作った僕のアバター。
彼は、ずっとこの世界と共にあった。
なのに、彼はいつしかみんなのテストアバターになってしまった。
気付けばゲームの中で他に居ない「キャラクター」になってしまった。
未実装故に唯一の職業。
自動操縦で24時間、必ずどこかに存在するbot。
常にレベルキャップを維持する廃人プレイヤー。
いろんな噂が纏わりついた。
好意も悪意も羨望も妬みも飛んできた。
僕はそれでも君を普通にしていたかったんだけど。
バカみたいだな、と思ってしまった。
最初から普通にはなれなかったんだと気付いてしまった。
ならばと僕は、君に詰め込めるだけの機能を詰め込んだ。
簡単ながら学習AIも付けて、フィールドに放った。
そして僕は、ひとつの企画書を提出した。
「新規職業の実装に伴う、カメリア討伐クエスト」
さようならカメリア。
君が倒されたその時が、君の本当の旅の始まりだ。
[二人ぼっち]
ひとりぼっちの 教室/丘の上 で
夕日を見てる 僕/私
夥しい 机/十字架 の山を背にして
黒板/ウィンドウ を確認する。
「君は今、何をしてますか?」
「夕日を見てるよ」
今日も 送る/届いた 中身が揃いのメッセージ。
座標も同じはずなのに、決して見えない君はきっと。
ふたり揃って、ひとりぼっちなのだろう。