[夢が醒める前に]
夢の中で、アイツはいつも俺を笑っている。
見知らぬ教室で。
夜の校庭で。
夕暮れの道で。
肌寒いスマホの写真の奥で。
管楽器の音が響く薄暗い階段で。
星が綺麗な屋上で。
「ーーああ」
目が覚めて後悔した。
今日こそは。今日こそはやっておくべきだった。
夢が醒める前にアイツを消しておかないと。
は、⬛︎の番なのだか
[胸が高鳴る]
胸が高鳴るような感情とは。
たった一度、保健室に運んでやった一年生が忘れられないことで。
名前もクラスも知らないのに、校内で見かけたらつい目で追いそうになることで。
そんな気は全くないのに。
「お前さ、好きな子できた?」
「……は?」
これだけのやり取りで、友人に何かがバレるようなやつらしい。
実際高鳴ったりはしていないと思っているんだが。
そう言われると、次見かけてしまったら何を思うのか。
分からなさすぎて溜息をついたら、友人は何が楽しいのかニヤニヤしていた。
イラっとしたので飲み物を奢らせることにした。
[不条理]
神が死んでから、世界は偶然で動いていると言う。
ならばきっと、私が交通事故で死んだのも偶然なのだろう。
それなら仕方ないかな、なんて思っていたのに。
目の前に現れた、神と名乗る誰かはこう言った。
「貴女が死んだのは、世界を救うためです。これも運命なのです」
つまり私は、世界を救いたい神に殺されたってことで?
[泣かないよ]
「泣かないの?」
「泣かないよ?」
「本当に?」
「ホントだよ」
「……」
「疑ってるね?」
いやだって。と、彼は呆れたような目で僕を見た。
「君、めちゃめちゃ涙脆いじゃん」
「それ、オイルだし」
彼は、その答えになぜか勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「涙ってのはな。目から出る体液っていう定義なんだぞ」
「なるほど。ならば僕の体液はオイルか。でも、泣かないよ」
「なんで」
今度は僕が勝ち誇った笑みを浮かべる番だった。
「君が死んでも泣くな、って。初代の君にプログラムされてるからさ」
⬛︎ 怖がり ⬛︎
彼は怖がりだ。
光を怖がり、音を怖がり。
空を。月を。太陽を。
広いところも。狭いところも。
彼を好む人も。嫌う人も。
全てを怖がり、隅に隠れている。
私はそんな彼の所に居るのが好きなんだけど、何を話しても、尋ねても。彼は推し黙っていて、答えてくれない。
部屋の隅でも、学校の階段の下でも。ベッドの中でも。
いつでも、どこでも。
全てを怖がる彼は、自分すらも怖がるように隠れている。
だから私は言うのだ。
「君は暗がりなのに、何がそんなに怖いんだい?」