7/16/2024, 11:25:48 AM
【空を見上げて心に浮かんだこと】
「ねえ今、空をとべたらいいのにって思った?」
髪をふたつに結んだ女の子が、顔を覗き込んで尋ねる。膝上までまくったジーパンからは、小麦色の細い脚がのびていた。
空色の服は水で濡れている。近所の小川で水遊びをしてきたらしい。
「あたしもさ、いつか自由に飛び回ってみたいんだぁ」
そう言って女の子は天を仰ぐ。
1面の青とそれを映えさせる真っ白な入道雲。
手をかざして日差しをさえぎって、ずらして目を細めて、またさえぎる。
「でもね、あたしにもあなたにも無理なんだって。母さん言ってた。」
ゆっくりと手を下ろして、顔を見て…。
突然女の子は思い出したように小屋の中に走っていく。
しばらくして出てきた少女は大事そうに卵を抱えて家に帰っていった。
7/15/2024, 10:30:33 AM
【終わりにしよう】
誰もいないはずの森の奥から、甲高い笑い声が聞こえる。もし人に化けた魔物ならば、即殺しに行かねばならない。
そう思ってトトは苦笑した。自分も魔物と相違ないのに、と。
息を殺して音の方へ向かう。笑い声はどんどん大きくなっていく。トトはナイフの柄に手を添えた。茂みの間から音の出もとを探る。
あぁ、と思った。
間違いなくそれは魔物だった。群れで行動する魔物。人を殺す魔物だった。
トトは村を通ってきた。子供がはしゃいで笑っていた。とても穏やかな人達の村だった。
ー自分の生い立ちすら忘れてしまう、幸せな空間。
今すぐに使命を捨てて何もかも終わらせて、こんな村で余生をすごしたいと、想像したりもした。
地面を蹴り上げナイフを閃かせる。
もう森に笑い声は聞こえない。