NoName

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【終わりにしよう】
誰もいないはずの森の奥から、甲高い笑い声が聞こえる。もし人に化けた魔物ならば、即殺しに行かねばならない。
そう思ってトトは苦笑した。自分も魔物と相違ないのに、と。
息を殺して音の方へ向かう。笑い声はどんどん大きくなっていく。トトはナイフの柄に手を添えた。茂みの間から音の出もとを探る。
あぁ、と思った。
間違いなくそれは魔物だった。群れで行動する魔物。人を殺す魔物だった。
トトは村を通ってきた。子供がはしゃいで笑っていた。とても穏やかな人達の村だった。
ー自分の生い立ちすら忘れてしまう、幸せな空間。
今すぐに使命を捨てて何もかも終わらせて、こんな村で余生をすごしたいと、想像したりもした。
地面を蹴り上げナイフを閃かせる。
もう森に笑い声は聞こえない。

7/15/2024, 10:30:33 AM