懐かしく思うこと
くだらない話で笑い転げたこと。
納得できるまでぶつかったこと。
身を滅ぼすような恋をしたこと。
[リハビリ]
もう一つの物語
頭が良く美しい娘と、優しさを学んだ王子が結ばれた。
その傍らで、勇猛な青年と彼に焦がれ続けた少女は永遠の別れを迎えた。
少女は青年の墓標に卵を2ダース供え続けたという。
[リハビリ]
暗がりの中で
何かが光った。
息を詰めて目を凝らすと
「にゃあ」
真っ黒な猫がいた。
[リハビリ]
束の間の休息
ケトルに水を入れてスイッチを押す。
ミルにコーヒー豆を入れて、ゆっくり取っ手を回す。ゴリゴリ、ガリガリと硬い手応えとともに、独特の濃い香りが広がっていく。
挽いた粉をフィルターにセットし、沸いたお湯を注ぐ。少しずつ、溢れそうになると手を止めて、またゆっくりと注いでいく。
お湯が落ち切ったところで、カップに口をつけた。
「にがっ」
すかさずティースプーン山盛りの砂糖とミルクを入れて、ようやくほっと息をついた。
力を込めて
ドンッバンッガタンッ
「このッ」
ドゴンッガンッダンッ
「くっ……!」
グッグッグッ
「っそ、のヤ、」
ドガンッビタンッベタンッ
「おりゃああああ!!」
ドタンッバタンッグニャン
「はあ、はあ、はあ」
ピピピピ、ピピピピ、ピピピ
震える手でタイマーを止める。思わず深いため息が落ちた。
「やっと終わった……」
しかし全力を尽くした分、上手く行った気がする。
調理台の上には白くて丸くて艶やかなパン生地が、早くも眠ろうとしていた。
過ぎた日を想う
「あ、日付変わってる」
もう寝ないと、と携帯を閉じる手が止まった。10月7日0時9分。ということは。
「昨日、10月6日だったんだ」
丸1日気づかなかったことに、胸がちくりと痛んだ。
もう何年も交流のない、かつての"親友"の誕生日。去年までは当日に気づいて、結局何もしなかった。
でも、忘れたりはしなかったのに。
楽しかった日々が脳裏を過ぎる。
「寝よ」
こうやって日々は過去になるんだな、と思いながら目を閉じた。
星座
「今日のNo. 1星座は、牡羊座⭐︎」
食い入るようにテレビを見つめる。
「気になるあの子に近づけるかも! ラッキーアイテムは水色のハンカチ」
水色のハンカチ持ってたっけ。あ、この前買ったやつ。
バタバタ用意して家を飛び出し、遅刻ギリギリで学校に着いた。汗だくの額をハンカチで押さえる。
「三間、おはよ」
「おっおはよ!」
「そのハンカチ、ゲームのコラボのやつじゃん。好きなの?」
「う、うん」
牡羊座の高坂くんが笑った。