柳絮

Open App
8/22/2023, 9:44:21 AM

空模様


くるんと回ると、スカートの裾がふわりと広がる。
そのままくるくる空と大地の狭間で踊ると、ふっと身体が宙に浮いて、そのまま空の中で踊り始めた。
煌めく星のリボンで髪を結い、夜明け色のブラウスと、空模様のスカートを身につけて、水たまりみたいな靴を履いた、空の少女は、くるくるくるくる踊り続けた。
夕焼けも夜更けも朝焼けも超えて、飽きる事なく踊り続けた。
くるくるくるくる登り続けて、そのうち空に溶けて消えた。







「世界で一番美しいのはだあれ?」
「それは私です」
「……んっんん。もう一度聞くわ。世界で一番美しいのは」
「私です」
「何でよ」
「世界で一番美しい人が私の前に立ったら、私にその人が映る。ということは、私が世界一美しいということです」
「同率一位じゃん。ていうかあんた鏡でしょうが」
「鏡としても世界で一番美しい自信があります」
「人間では?」
「私です」
「じゃあ鳥なら?」
「私ですね」
「ずっる! 全部あんたじゃん!」

8/21/2023, 7:56:54 AM

いつまでも捨てられないもの


「ねえ、あれ何?」
「……ああ、あれ」
一人暮らしを始めた友人の、落ち着いておしゃれな部屋。洗練されたインテリアに合わないくたびれたぬいぐるみが気になって訊くと、彼女は肩をすくめた。
「思い出の品ってやつ?」
「残念ながら、現役バリバリよ」
どういう意味だろう? 首を傾げると、彼女はため息をついた。
「捨てても戻ってきちゃうのよ」
「え」
「除霊が成功すれば戻らないの。修行あるのみだわ」
いやそんなダンベルみたいな。



誇らしさ


『優勝だー!!!』
歓喜に沸く観客たち。抱き合って喜ぶ選手たち。実況と解説の興奮した声で試合が振り返られ、その間にも飛び跳ねて健闘を讃えあう姿が映る。
チームメイトと肩を叩き合い泣き笑いを見せる息子の姿に、目頭が熱くなった。
身体の弱い子だった。鍛えるために運動を始めても、不器用で要領が悪くて、それでも楽しいと笑う子だった。
「こんなに大きくなって」
世界中から称えられる貴方が笑うのが、私は何より誇らしい。

8/18/2023, 3:12:40 PM

今日の心模様


朝から快晴で、髪も上手く巻けたし、星占いも一位だったし、今日はいい日だと思ったのに。
(嘘でしょ……)
帰る頃になって急に雨。友達は部活だし、置き傘もない。
(アイス食べて帰ろうと思ってたのに)
「ひゃーすごい雨」
「! 結城くん」
心臓が飛び上がった。
「三島さんも帰れないの?」
「傘なくて。通り雨かな」
「ていうかスコール」
「ふふ、ほんと」
でも恵の雨だ。結城くんと話せるなんて。
今日は、晴れのち雨ときどきドキドキ。




夜の海


ザザーン、と音がする。
窓の外は真っ暗だが、昼間見たときと同じように、岩場に波が打ちつけているのだろう。白く泡立つ波の花が岩にぶつかり砕け散る。
ザザーン、と音がする。
波の音には癒し効果があるというが、とてもそうは思えなかった。バシャ、ゴポゴポ。岩肌に当たるせいか、渦巻き海中に引き込まれる音が背筋を粟立たせる。
ザザーン、と音がする。
誰かが海の中から手招いている。寂しげに泣いている。
そんな音だった。




自転車に乗って


バサバサとスカートが風に翻る。ハーフパンツを履いているからいいけど、それ以前に車輪に巻き込まれないかちょっと不安だ。
「おーい、あんまり遅れんなよ」
顔を上げると、振り返った綾瀬とは少し距離が離れていた。
「そっちがペース落とせばいいじゃん!」
「遅かったら後ろからウイリーで煽るっつうから」
「ちょ、前見ろ前!」
「うわっと」
大型トラックの脇をすり抜ける。
「買い出しだる」
「アイス食わね?」
「いいね! 内緒で!」

8/14/2023, 7:08:40 AM

心の健康


「えちょ、やばない?? 推しの水着やばない? 軽率に腹筋見せるのやめてもらえませんか死んでしまいますけしからんもっとやれ」
「一息で言ったwww」
「やばい夏イベオタクを殺しにかかってる。これは走るしかない。え石足りる? 足りん? 任せろ課金じゃ!」
「おっしゃーやったれ! ……うを!? え、嘘うそうそ、マジか。やばい来た」
「何が?」
「アニメ2期先行上映会当たったー! うおおおたぎる!」
「やったじゃん! 夏サイコー!」

8/12/2023, 10:25:07 AM

君の奏でる音楽


俺には好きな音がいっぱいある。ピアノ。バイオリン、雨、葉擦れ、細波、虫の声。
でも1番好きなのは、レミの歌。
「ソラ? 何してるの?」
柱の陰に隠れていたら、ひょっこりレミが顔を出した。
「何かあった?」
「え、何で」
「やなことあると隠れる癖、変わってない」
幼馴染にはお見通しらしい。
「ねえレミ。歌ってよ」
レミはめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。でも隣に座って、小声で歌ってくれる。
調子ハズレでも、心がこもってる歌。

Next