柳絮

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8/12/2023, 10:00:56 AM

麦わら帽子


「マリーゴールドじゃねぇよ!」
「何も言ってないよ!?」
「思ってるかなと思って」
「思ってないから。腕が伸びそうだなとしか」
「海賊王じゃねぇよ!」
「うん、まだね、もうすぐだね」
「そういうことじゃない」
「あとはカカシとか」
「写輪眼じゃねぇよ!」
「そっちじゃない」
「脳みそ詰まってるわ!」
「そう、それ!」
「わかってもらえて嬉しいって顔やめて」
「でも似合ってるね。どこで買ったの?」
「ワークマン」
「ガチのやつ」




終点


ふと目を覚ますと、目の前に大好きな人がいた。
大きな窓から差し込む夕日に染められて、オレンジがかった視界の中、がたんごとん、心地よい揺れにされるがまま、向かいの席に座っている。
ああ、なんだ夢か。
ほかに誰もいない車両。眩しくてよく見えない窓の外。遠くを見つめるその瞳が、不意にこちらを向いた。
「もう降りないと」
立ち上がって、頭をポンと撫でてくれる手。
促されるまま電車を降りると、涙がポロリと落ちた。

8/10/2023, 1:35:31 PM

上手くいかなくたっていい


「失敗したっていい。まずは挑戦するところからだ」
そうだ。動き出さなければ始まらない。
手持ちのピースをかき集め、より分け、頭の中に大まかな設計図を組み立てる。できるだけあるもので、どうしても足りないものは行きつけの店に買いに走る。360度の完成形を思い描きつつ、あとはひたすら手を動かしていく。積む。重ねる。並べる。俯瞰する。資料画像と見比べて修正を重ねる。

「は? レゴで首里城作った? バカじゃないの?」




蝶よ花よ


「あんた、いうほどかわいくないから」
殴られたような衝撃が私を襲った。
「パパもママもレナのことかわいいって、 にいさんたちもてんしーとかようせいみたいーっていうよ!?」
「そういうの『おやのよくめ』っていうんだよ」
親の……欲目……!
「レナかわいくなかったんだ」
「ふつう。ちゅうのじょう」
中の上かぁ。リアルだなぁ。
「まおちゃんとともだちになれてよかったよ」
「ふーん。あたしも」
親友のおかげで現実を知った日。


8/8/2023, 9:07:34 AM

最初から決まってた


♡「どうせだし罰ゲームしねぇ?」
♤「は? 今更かよ」
♢「えー例えば?」
♧「モノマネとか嫌だよ僕」
♡「ジュースおごるとか」
♤「面白くねぇよ」
♢「まあそのくらいなら」
♧「サイダー飲みたい」
♡「よし、決まりだな」
♤「ちっ。ほら上がり」
♡「え?」
♢「俺も引かれて終わり」
♡「ちょ、」
♧「そして僕も引いたので揃って終了〜!」
♡「嘘だろ!?」
♤「ばーか」
♢「ふっふっふ。こうなることは最初から決まっていたのさ」

8/6/2023, 1:01:53 PM

太陽


最近、妻が優しくなった。
以前は、やれ家事を手伝えだ、やれ子供の面倒を見ろだとうるさかったのに、今は「仕事で疲れてるのよねビールどうぞ」だとか「パパの絵描いたのよねあとで見てあげてね」だとか言って大人しい。こうなると何だか不気味なもので、用もなくキッチンへ行って「何か手伝おうか」なんて言ってしまう。すわ浮気かとも思ったが流石にそれはないと信じたい。高額な買い物でもしたか?

「北風と太陽ってやつよね」




つまらないことでも


「どこがよかったの?」
ストローでアイスティーをかき混ぜて梨花がニヤリと笑う。
「それ本人の前で聞く?」
「俺も気になる」
3人の視線が集まる。
「つまらないところ」
「……はぁ!?」
「何だそれ」
「つまらないのはわかるけど、わからん」
「皆してつまんないって言うなよ!」
匠がギャーギャー騒ぐのを勝が押さえつけている。その隙に梨花にだけ囁く。
「つまらないこと言って、くだらないことで笑い合えるところ、かな」
「ひゅー」

8/5/2023, 3:49:16 AM


目が覚めるまでに


千年の眠りについたお姫様。
美しい顔にも平等に埃は積もるから、丁寧に優しくお顔を拭く。部屋の中ももちろん綺麗に掃除する。
最近気づいたのは、お洋服も劣化するってこと。どうやら魔法はお姫様の身体にしかかかっていないらしい。だから今、新しいお洋服を縫っている。着替えさせるのは大変そうだけど、それはそのときに考えよう。
手を動かしながら、ときどき、お姫様を目覚めさせる王子様に思いを馳せる。きっと素敵だろうな。





病室


そこはカラフルだった。
壁じゅうに画用紙が貼られ、色とりどりの絵が描かれている。合間には折り紙の飾り。来客用の椅子にクマのぬいぐるみ。ベッドの上にもイルカやシャチ、ペンギンなどがこれでもかと乗っている。備え付けの布団の上から薄手の布がかけられていて、まるで水中のような波紋と魚が泳ぐ柄になっている。枕カバーは砂浜の色だ。棚の上に青いコップが忘れられている。
そこには、部屋の主の息遣いが確かに残っていた。

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