柳絮

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目が覚めるまでに


千年の眠りについたお姫様。
美しい顔にも平等に埃は積もるから、丁寧に優しくお顔を拭く。部屋の中ももちろん綺麗に掃除する。
最近気づいたのは、お洋服も劣化するってこと。どうやら魔法はお姫様の身体にしかかかっていないらしい。だから今、新しいお洋服を縫っている。着替えさせるのは大変そうだけど、それはそのときに考えよう。
手を動かしながら、ときどき、お姫様を目覚めさせる王子様に思いを馳せる。きっと素敵だろうな。





病室


そこはカラフルだった。
壁じゅうに画用紙が貼られ、色とりどりの絵が描かれている。合間には折り紙の飾り。来客用の椅子にクマのぬいぐるみ。ベッドの上にもイルカやシャチ、ペンギンなどがこれでもかと乗っている。備え付けの布団の上から薄手の布がかけられていて、まるで水中のような波紋と魚が泳ぐ柄になっている。枕カバーは砂浜の色だ。棚の上に青いコップが忘れられている。
そこには、部屋の主の息遣いが確かに残っていた。

8/5/2023, 3:49:16 AM