好き嫌い
「あたしって好き嫌い激しんだよねぇ」
「へー」
「ピーマン入ってたらすぐわかんもん」
「子どもか」
「カレーは3日連続でも食える」
「それは割とみんなそう」
「生クリームは飲み物」
「糖尿になるわ」
「あとこれ、マイ唐辛子パウダー」
「極端すぎない?」
「カカオ99%は食べ物じゃない」
「顔すごいことになってるけど」
「人の好き嫌いも激しんだよねぇ」
「マナ友達少ないもんね」
「みーこだけいれば良くね?」
「良くねえわ」
街
「おばちゃーん、コロッケひとつちょうだい」
「はいよー」
「今日はオクラとキュウリが安いよ!」
「タイムセール! 卵1パック88円!」
「ママ今日のごはんなにー?」
「うーん、何が食べたい?」
「ねえクレープ食べない?」
「えー今ダイエット中なのに〜」
「すみません、これいくらですか?」
「お、旦那さんあれからどうだい?」
「だいぶ良くなったわ。けど本当歳考えてほしいわよね」
「どうした?」
「昔ながらの商店街って感じ」
やりたいこと
「やりたいことがあるんだ」
そう言って彼は私の元から去った。
私は今まで通り、朝起きて会社に行き、同僚とランチを食べ、定時後も2時間ほど残業して、家に帰る。夕飯は今までよりも適当に済ませることが多くて、今日もコンビニだ。
カップ麺を食べながらSNSを開くと、彼の写真が流れてきた。アフリカの子どもたちと泥だらけの笑顔を見せている。
書類入れから封筒を取り出した。表書は「退職願」。
まだ、間に合うだろうか。
朝日の温もり
僕の世界は真っ暗だ。
いや、真っ暗らしい、というべきか。
最初から、光も色も形もない世界。形は触ったらわかるけど。
可哀想だねと言われることがある。口にしなくても、そう思われているのを感じる。確かにそうなのかもしれない。見える人からしたら、不幸なのかも。
でもね。
僕にも朝日が昇ったのがわかるよ。
みんなが眩しいって目を逸らすとき、僕は正面から朝日の温もりを体いっぱいに浴びる。
誰よりも夜明けを謳歌している。
岐路
(こっちだよ)
「え?」
振り向くとそこには誰もいなくて、真っ直ぐ土の道が伸びていた。先は霞みがかって見えない。白い闇。
首を戻すと、その先にも道があった。シャボン玉に映る光のような、不思議な色の靄に覆われている。
その道へ踏み出そうとすると、また声が聞こえた。
(そっちじゃないよ)
「でもこっちの方がつらくなさそうだし、」
(大丈夫だよ)
大丈夫じゃないよ。泣きながら反対の道へ歩いた。
目が覚めたら病院だった。