雫
予定が終わり、ひとりの帰り道。
私の手元にふと、ぽたぽたと雫が落ちる。
雨?傘は持ってきていない。焦って空を見上げると、
晴れ。全く雲がない訳では無いが、
雨が降っている様子もない。
じゃあこの雫はなんなんだ?
我に返ってみると、
何故か立っていられなくて地面にしゃがみこんだ。
そこまでして、やっと認識できた。
今私の頬を流れている雫。
私は自分が泣いていることにも気づけなかった。
早く帰って休もうか。来週の予定は断って。
何もいらない
もう何もいらない...?あぁ、そう。
じゃあ全部貰うよ、君のもの。
私物も家も友達も。家族も感情も、命も。
ね、それで良いんでしょ?
...ねぇ、本当にいいと思うの?
もしも未来を見れるなら
テストの答えだとか、宝くじの当選番号だとか、
よくある答えじゃつまらない。
だからと言って自分の未来の姿、命日。
今知ってどうする?いつか起こる避けられない運命だ。
だから私は、数百年後、数千年後。
ずっと遠くの未来を覗きたい。
普通に生きていれば知ることのなかったはずの、
地球のこと、街のこと、人類のこと。
たとえどんなに悲惨だったとしても、
その頃には私はいないから気にしなくていいでしょ?
無色の世界
私たちは無意識に、フィルターをかけて物事を見る。
これは非常識だ、普通じゃない、変。
“普通”を決めつけて、そこに自分を閉じ込めて。
無色の世界に囚われて、空の色すら分からなくなって。
そんなときに、あの人の物語に、言葉に出会う。
自分の世界で生きていていいんだって。
あの濁りのない瞳に映る世界は、
どんなに綺麗だっただろうか。
もう確かめる術は無いけれど、ずっと誰かの心の中に。
桜散る
人々の感情、不安、喜びを、照らし散らした桃色は、
ついにほとんど見えなくなった。
ついにと言えど、たった1週間の景色。
空に広がっていた桜色。あと何度楽しめるのだろうか。
そう思うほど、見られる機会は少ないけれど、
日本を象徴する花であり、春を象徴する花であり。
大切で、唯一無二で、刹那的。
そんな思考をやめて歩き出す視界の端に、
孤独に舞い落ちる、最後の花弁が見えた。