このまま沈んちゃって
飽きるまで転がり落ちて
まだ、足らないだろう?
紅の花が頬を差す
あのときぼくたちはきえたかったんだ
だから嬉しかったんだ
支えるのが怖かった
愛し合うのが怖かった
ただそれだけ
相槌を打って
さよならまたねって
だけど
一目惚れしたから
また会いたくて
我儘なぼくだ
さむい海を一人で歩く
ちゃぽんと鳴る投げた石ころ
息を細く吐きながら、涙目のあたしはまだ俯いて
なくせないから美しいと
景色には嘘はつけないと
さむがる悴んだ手を広げて
遠くの灯を見つめたあたし
貝殻にぜんぶ吐き出せば楽じゃないか
いっそ海にさえ藻掻いてしまえば生きれたのに
悲しくなって
愛を売って
死にたくないと呟いた
朝焼けの、海
別れるときにはいつも匂いがした
甘い匂い
酸っぱい匂い
さっぱりする匂い
様々な匂いが鼻を掠めた
貴女は優しく笑って
「またね」と
手を振って歩き出す
貴女の香水の匂いに
ぼくはまたくらくらする
遠ざかる足音に
思わず立ちすくむぼくを
涙の匂いが
鼻を掠めた
貴女の横顔に惚れて
息も止まるほど美しく笑って
辛い時もめげずに笑って
そして実ったのは
恋と言う心情
雨が降っても、風が吹いても
めげない
恋の花畑
灯りがぼおっと付く満月の夜
暗い道を独りで歩く私の近くに、優しく吊るされた提灯が道を照らしていた
提灯の方に寄ると、そこは小さな蕎麦屋
私に気付いた店主が、軽く挨拶をする
「一人ですかい?」
「ああ…はい」
「そこ、どうぞ、」
「すみません…ありがとう」
「メニューはなんにしましょうかい?」
「じゃあ、日本酒をコップ一杯、蕎麦も」
「へい」
店主の、蕎麦を作る姿を眺めていると、突然問いかける
「ようこんな店を見つけられましたねえ、灯りがちっぽけだもんで、みんな通りすぎるんですわ」
「まあ、月明かりよりは明るいですからねえ…」
「ほないですか」
店主は深く頷いた
やがて、出来たての蕎麦と、酒が置かれる
蕎麦をするすると啜り、酒を一口
「旨いです…!」
「そりゃあ、よかった」
にぃと笑う店主の顔
食べ終わり、お金を払って店を出ようとすると、店主が呟く
「また、きんといてください、いつかまた会えたらですが」
「ええ、モチロン、いつか…また満月の日ですかね」
「満月の日ですか…そうか…」
店主に挨拶をして、軽く後ろを振り返ると、蕎麦の灯りが消えていた
満月の灯りも雲に隠れていた