灯りがぼおっと付く満月の夜
暗い道を独りで歩く私の近くに、優しく吊るされた提灯が道を照らしていた
提灯の方に寄ると、そこは小さな蕎麦屋
私に気付いた店主が、軽く挨拶をする
「一人ですかい?」
「ああ…はい」
「そこ、どうぞ、」
「すみません…ありがとう」
「メニューはなんにしましょうかい?」
「じゃあ、日本酒をコップ一杯、蕎麦も」
「へい」
店主の、蕎麦を作る姿を眺めていると、突然問いかける
「ようこんな店を見つけられましたねえ、灯りがちっぽけだもんで、みんな通りすぎるんですわ」
「まあ、月明かりよりは明るいですからねえ…」
「ほないですか」
店主は深く頷いた
やがて、出来たての蕎麦と、酒が置かれる
蕎麦をするすると啜り、酒を一口
「旨いです…!」
「そりゃあ、よかった」
にぃと笑う店主の顔
食べ終わり、お金を払って店を出ようとすると、店主が呟く
「また、きんといてください、いつかまた会えたらですが」
「ええ、モチロン、いつか…また満月の日ですかね」
「満月の日ですか…そうか…」
店主に挨拶をして、軽く後ろを振り返ると、蕎麦の灯りが消えていた
満月の灯りも雲に隠れていた
6/24/2024, 10:30:32 AM