二人だけの秘密
そうだ。
そう言ってあの子は私にこれを託した。
あの子からは色んな話を聞いた。
外の世界のこと。
落ちていく光のこと。
漂っている灰のこと。
焼き尽くす閃光のこと。
全部あの子から教わった。
教わったことは私とあの子だけの秘密にして、
今、託されたものを引き継ぐために。
「おはよう」
重い瞼を擦りながら、
そう言って光の差し込む回廊を歩く。
誰がこんな長い廊下を作ったのか、
ため息が漏れた。
(光の回廊)
何も見えない日
ある雪の降る日のことだった。
僕は時空制御装置の前でカップラーメンを啜っていた。
僕の仕事は、くるくる回るこの装置に異常が起きたらすぐに対処すること。
とは言ってもこれは博士の最高傑作だから異常なんて滅多に起こらない。そのお陰で一日の大半、いやほとんどずっとここに常駐している。
暖房がまた息を吹き返した。
僕は空になったカップ麺の容器を流しに置いて、また時空制御装置と向き合う。
ウィィィィン......と機械的な音を立てて中央の紫のランプがほのかに光度を変えている。
何故か電球のワット数が小さく、部屋全体が薄暗い。
窓はあるけど小さく、それに加え北向き。
一日中、明るくなる時がない。
僕はぼんやりと窓の外を眺めた。雪がしんしんと降り、外との温度差で窓は曇り、何も見えなかった。
君が隠した鍵
縦横無尽に書き綴られた日記の中に、一つの単語が浮かび上がった。
《私を見つけて》
眼球が固定されて、他に行けなくなった。
《私はどこにいる》
知らない。
《私は暗くて狭い檻の中》
檻?
《はやくみつけて》
君は誰なんだい。
《私はあなたを知ってる》
僕は知らない。
《最後に一つだけ》
なに?
《私を見つけて》
時計の針がてっぺんに登る。
振り子は揺れ出す。
静寂の中で、時計はポンと跳ねる。
灯火を囲んで
ゆらゆらと毛先を揺らす蝋燭は隙間風を嫌う。
風が強すぎると体を持っていかれそうになるから。
「その理由なら分かるよ。
冷たすぎる風は魂をも吹き消してしまいそうだからね」
ボロボロの着物を羽織った青年が言った。
暗い狭い隙間だらけの箱の中、
青年のたった一人の話し相手は今にも消えてしまいそうな小さな灯火だけ。