君が隠した鍵
縦横無尽に書き綴られた日記の中に、一つの単語が浮かび上がった。
《私を見つけて》
眼球が固定されて、他に行けなくなった。
《私はどこにいる》
知らない。
《私は暗くて狭い檻の中》
檻?
《はやくみつけて》
君は誰なんだい。
《私はあなたを知ってる》
僕は知らない。
《最後に一つだけ》
なに?
《私を見つけて》
時計の針がてっぺんに登る。
振り子は揺れ出す。
静寂の中で、時計はポンと跳ねる。
灯火を囲んで
ゆらゆらと毛先を揺らす蝋燭は隙間風を嫌う。
風が強すぎると体を持っていかれそうになるから。
「その理由なら分かるよ。
冷たすぎる風は魂をも吹き消してしまいそうだからね」
ボロボロの着物を羽織った青年が言った。
暗い狭い隙間だらけの箱の中、
青年のたった一人の話し相手は今にも消えてしまいそうな小さな灯火だけ。
凍える朝
(未完です。ヤマなし、オチなし、イミなし)
太陽が空に姿を表し始めた頃、小さな小屋にギュウギュウ詰めになっている鶏たちは一斉に鳴き出す。
私はその声に毎回叩き起される。けして爽快とは言えない目覚め。
暖かな布団の中と、凍えるような寒さの外とは、天秤に賭ける程でも無く、私の中では理性と欲望がお互いを飲み込みあっていた。そんな私を他所に、鶏の1羽がまた声高々と声帯を震わせた。
そろそろ起きねば…「飼い主としての、責任をっ!」声を絞り出し、なんとか軽く伸びをする。そして横になったまま布団を蹴飛ばし、その勢いで上体を起こした。
布団の外はやはり酷く冷えていて、首と肩を固めてしまう。それでも何とか足を動かし、真っ先に鶏小屋へと向かった。
餌を補充し終わり、転がるように家へ向かおうとしたが、家も外も気温的にはほんの少しの誤差しかないことを思い出し、嫌気が差す。横目で鶏を眺めると、1羽と目が合い、ほんの少し口角が緩んだのを感じた。
揺れる羽根
終わりの見えない広大な空からふわりふわりと
真っ白な羽根が落ちてきた。
壊れかけのコンクリート塀の内側。殺伐としていて逃れようのない空気の中、
その白い羽根だけが、私には美しく、輝いて見えたのだ。
秋恋
1943年 秋
私はあの時、最初で最後の恋をした。
勲章を付けて、背筋を伸ばし、歩いていた凛々しい
軍人さん。
名前も知らないあの人に、幼い頃の私の心は、
一瞬にして奪われた。
それからというもの、あの人を見かけた事は無かったけれど、。
何十年経った今でも、秋になると軍服の足音が脳裏をこだまする。