「ぼくがお母さんを助けてあげる!」
母にとっては重くもない買い物かごを
半ば奪い取るように両手で抱え上げる。
母のお礼が耳に届かないほど、
それは一生懸命に全身の力を振り絞って
買い物かごを持ち上げ歩いた。
ただただ、役に立ちたいと。
誇らしい息子でありたいという気持ちで。
そんなことも忘れ育ち。
何の役にもたたず、
ただただそこにいるだけの人間に成り下がった。
家のことなぞ母がやってくれると…。
そんな月日を過ごしていたところに、
母が余命宣告を受けた。
唐突だった。
何をしてやれば母のためになるのか。
初めて本気で考えた。
だが悔しいことに何も思い浮かばない。
これまでも一瞬だけ、何かしようとは考えた。
でもやることなすこと他人よりレベルが低い。
それに気づいた瞬間、諦めた。
自分が役に立てると思えなかった。
誇らしい息子でいたい。
誇らしさで、満たされたいのに…。
…しかたがない!
時間がないんだ。
久しぶりに見たその顔は
とても穏やかなものだった
いつもどこか疲れた表情をしていたのに
憑き物が落ちたような
清々しさ?いや、晴れやかさ?
いや、安らかさを感じさせる顔をしていた
久しぶりに見るどこまでも真っ直ぐな
けれども暖かみのある優しい目
その瞳にあてられて
こっちまで心穏やかになる
安堵した空気が
二人を包んで取り囲む
永遠に続くわけもない
けれどその時間を切望するでもなく
ただただ夢中で見つめ続けた
互いのその安らかな瞳を
私があそこで出会わなければ
最愛の人を不幸にしなかったかもしれない
私があのとき運命に抗わなければ
出会わなくてすんだかもしれない
そのかわりこの世にもいない
出会った時から思っていた
犬になって出会いたかったと
忠犬としてそばで支えたかった
人である必要はなかった
ただ、主の幸せを、笑顔を、癒しを
傍にいて守りたかった
ただ、それだけだった
何度も伝えたんだけどね
毎回断られてしまった
人でなきゃできないことがあるから
犬になってはダメなんだとさ
はてさて、どうしたものか
離れてからずっと、
愛する人に試練の日々が続いている。
一つ一つが重く、
私の助けなど直接的な解決には繋がらない。
ただ、相手の力を信じて、
落ちかける心を支えてやるしかできない。
日々身を削っている。
傍にいてやることもできない。
ただただ、少しでも早く
平穏な日々を取り戻せるように。
そう祈り、支えてやることしかできない。
心の底から笑える日を。
何も考えず落ち着ける時を。
1日でも早く、平穏な日常が
あなたに訪れますように。
あれしなきゃ
これしなきゃ
ほら、あれだって
目につくことを片っ端から処理していく
やけに今日は軽快だ
普段の重い腰は何だったのかと
いつもこれくらい軽快であればいいのにと
ひととおり処理し終わると
やるべきことが見つけられない
いいや、ある
本当はある
もっと大きな爆弾が
何かした気になってる間に
安心感を得ようとしている間に
どんどん危険度を増していく爆弾が
そう、今までのことは現実逃避
すべきことから目を反らす
小さな達成感の積み重ねと
増す罪悪感を萎ませる
悪魔の誘惑