ささほ(小説の冒頭しか書けない病

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10/31/2024, 10:22:14 AM

理想郷

その国の名はエレホン? それともオイコットシティ? 無何有郷は存在しないからこそ無何有郷なのだけど、それはそれとして、あなたがそれをずっと探しているのは理解した。何度も転生して探しているんだよ。覚えてないよね。でも探してる。前々回の生でウィリアム・モリスに憧れ、前回の生で武者小路実篤に憧れ、そしていま憧れるべき国を探している。うん。あなたはいま夢を見ている。夜眠って見る夢だよ。でもあなたのその夢はもうあなたひとりの夢ではない。インターネットという大きな何かが見る夢がどこまで大きくなるかぼくにはわからない。ぼくはあなたの無意識にしか干渉できない。そしていまぼくは干渉したくない。あなたは夢を見続けなさい。あなたの大昔の先祖であるぼくはあなたの夢を愛している。

10/30/2024, 10:32:21 AM

懐かしく思うこと

最近ご近所の博物館でやってる埴輪と古墳の時代展を見に行った。一人で行ってもよかったんだけど、ほんとはちょっと怖い気がして夫と行った。埴輪はそんなに怖くなかった。あんまり思い出さなかった。でも歪んで黒ずんだ土師器のお椀を見たら懐かしくて懐かしくて、ぶわっと涙があふれてきた。そう、あんなふうにお椀は歪んでたの、あのころ。夫と一緒に来てよかった。彼は私に何が起きたかわかってくれた。私はもう二千年くらい生きた。私には懐かしく思うことがありすぎるのだ。

10/29/2024, 11:18:06 AM

もう一つの物語

もう一つの物語は階下で続いているがぼくはもうそんなものはどうでもよかった。無数の物語がぼくの顕微鏡の下で生まれ、物語られ 、続き、死に、そうだよ、顕微鏡下の物語こそぼくを魅了した。だからぼくは階下で続いているぼくの物語を忘れかけていた。いや、本当のことを言おう。ぼくはぼくの物語を忘れたくて顕微鏡下の物語に夢中になっていた。

殿下、と呼ばれた。ほくはその呼び名を好まない。なので失礼でない程度にゆっくり振り向く。

「殿下、王太子は革命軍によって討たれ崩御されました」

それはぼくの物語でないもう一つの物語。ぼくの物語は顕微鏡下の楽しい物語がよかったのに、それは許されないらしい。ぼくはしかたなくたちあがる。

10/28/2024, 11:30:41 AM

暗がりの中で

暗がりは毎日ある。ないと言う人は夜がない土地に住んでるんだろう。そういう土地がないとは言わない。太陽が5個くらいある惑星系だとあんまり夜こないんじゃない? アイザック・アシモフにも「夜来る」ってお話あったよね。

そう、普通に生きてたら毎日暗がりがある。暗がりは昼日中にもあって、それはたとえばカクレンボにほ楽しい空間だよね。

そういう問題じゃないと?

うん。気づいてた。きみは暗いとこにいないと生きられないと、そう、そうだよ、そう思ってるんだよね?

じゃあいまからぼくと南半球真夏ツアーに出かけよう。君の知り合いは誰もいない。きみを指さし妖怪や悪魔扱いするやつもいない。きみが本当に明るい日差しがだめなのかはビーチで日差しに当たってから決めよう?

※※※

ていうかこんなのより私が書いたせなけいこ追悼文読んで!

せなけいこさんが亡くなった。代表作「ねないこだれだ」も好きだけど、めがねうさぎもばけものつかいもすきだった。「きれいなはこ」が特に大好きだった。こどもがはじめて出会う異形の絵本は、子どもが異形と化す絵本でもあった。せなけいこさんの絵本の中ではオバケもかわいい猫も犬もこどもも等価なものであって、オバケだから怖がられることもないかわりに、こどもだから特にかわいがられることもなく、こどもも排除される恐ろしいものになりうる恐ろしい世界を描き、それでも読者に愛される不思議な絵本を作った人だった。

「きれいなはこ」はきれいなものを自分のものにしようとして異形になってゆくわんちゃんやなんかを描いて本当に怖かった。落語に取材した「ばけものづかい」ではばけものの気持ちがわかって不思議な気がした。「めがねうさぎ」はうっかりめがねを天ぷらにするうさぎが本当にバカバカしくて親近感が持てて楽しかった。

でもやっぱり、せなけいこさんの最高峰は「ねないこだれだ」なんだと思う。夜を怖いと思う気持ち。でも夜を起きていたい気持ち。そして夜を起きているとオバケになってしまうというあの恐怖。

せなけいこさんはもう長く生きたのでゆっくりお休みしてほしい。でも気が向いたら、この世にときどきやってきて、オバケとしてみんなをびっくりさせてほしい。

10/27/2024, 11:29:37 AM

紅茶の香り

こいつはコーヒーより紅茶が好きなんだ。それは知ってるけど、うちには紅茶がない。あるのは緑茶とインスタントコーヒーだ。飲み物にはあんまりこだわらないんだよ。というかこだわるのがめんどくさい。違いなんてわからない舌のほうが安上がりだ。飲み物を出さない言い訳を必死に考えていたらキッチンから紅茶の香りが漂ってきた。

「あなたのことだから気の利いた飲み物なんてこの家にはないんでしょう? あたしがティーセット持ってきて淹れてあげたわよ。アールグレイ。よく味わってお飲みなさいな」

コーヒーがいいと言ったら怒られそうだな。

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