今一番欲しいものは「やる気」なんだけど、それはなんのネタにもならんのでとりあえずこれだけ書いて保全。もう少し面白いお題はないのかなあ。「引き出しの奥」とか。「屋根裏の音」とか。「冷蔵庫の中の不気味なねとねと」とか。
私の名前…思いついたら書くけど今日はたぶん思いつかん。
視線の先には
「空を見ろ!」「鳥だ!」「飛行機だ!」「いや、あれはスーパーマンだ!」という牧歌的かつ20世紀的なお馴染みの台詞を言うことはできなかった。「あれはなんだ!」との問いに誰も答えられなかった。人々はみな空を見上げた。その視線の先にある暗い物体が、どんな形をしているか語れる人はいなかった。視線を集めるたびその暗いものは成長した。人々は次第に空を見上げなくなり、疑心暗鬼な心をそのまま同朋にぶつけ始めた。誰かが誰かを傷つけるたび空の暗いものは大きくなる。やがて地に落ちてくるのだろう。そのとき私たちは私たちが作り上げたものと出会うのだ。
私だけ
私だけが変わらなかった。他の兄弟姉妹は古い皮を脱ぎ捨てて、きらきらひらひらと美しく光る羽をゆっくりと伸ばしてゆく。私は茶色いみっともないこどもの皮をかぶったままだ。どうしても脱げない。羽を伸ばしきったみんなは空に飛んでいった。私はただ見上げた。それから月が細くなり丸くなりまた細くなり、羽をボロボロにした私の兄弟姉妹たちが次々に落ちてきた。そろそろ秋が来るのだ、土に潜るかと考えていると茶色いこどもの皮をかぶった子が近づいてきた。
「ああよかった。ひとりかと思ってたよ」
「あなたはだあれ?」
「ぼくもきみも秋組だよ。ぼくらはいまから冬を越して春になったら大人になるんだ。知らなかったの?」
知らなかった。それより「私だけ」ではなかったことが嬉しすぎて私はしばらく泣いていた。
遠い日の記憶
いらっしゃい、買いにきたのかね、売りにきたのかねと小柄で毛むくじゃらな狸みたいな店主が言った。売りに来たと俺は答える。間違いないかねと念を押される。もちろん間違いないと言いながら俺は少し考える。俺は辛かったこども時代の記憶を売りに来たので全く間違いはない。狸店主にこども時代の記憶を売りに来た旨伝えると狸店主はやめとけと言った。でも俺はやめる気はない。母も父も俺にひどいことしかしなかった。俺を殴り蹴り食事を抜き罵倒した。だから俺はあいつらを忘れたいのだ。そういうと狸店主は首を振ってわかったといい、俺の首に指をあてた。俺はそれで両親に観する記憶をすべて失った。狸店主にいくら払えばいいのかと聞くとこれは売り物になる記憶だから金はとらんという。しかし、と言いかけたら、狸店主がこれだけは返しといてやると何か俺の首に貼り付けた。そうだ、とても寒い夜、母さんは俺の首になにか暖かいものを…いや忘れよう。俺に親なんかいないのだ。