ささほ(小説の冒頭しか書けない病

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遠い日の記憶

いらっしゃい、買いにきたのかね、売りにきたのかねと小柄で毛むくじゃらな狸みたいな店主が言った。売りに来たと俺は答える。間違いないかねと念を押される。もちろん間違いないと言いながら俺は少し考える。俺は辛かったこども時代の記憶を売りに来たので全く間違いはない。狸店主にこども時代の記憶を売りに来た旨伝えると狸店主はやめとけと言った。でも俺はやめる気はない。母も父も俺にひどいことしかしなかった。俺を殴り蹴り食事を抜き罵倒した。だから俺はあいつらを忘れたいのだ。そういうと狸店主は首を振ってわかったといい、俺の首に指をあてた。俺はそれで両親に観する記憶をすべて失った。狸店主にいくら払えばいいのかと聞くとこれは売り物になる記憶だから金はとらんという。しかし、と言いかけたら、狸店主がこれだけは返しといてやると何か俺の首に貼り付けた。そうだ、とても寒い夜、母さんは俺の首になにか暖かいものを…暑い夜もなにか冷たいものを…いや忘れよう。俺に親なんかいないのだ。

7/17/2024, 11:00:32 AM