繊細な花
「繊細な花なんてお題は書けねーっ」とひとりごちて伸びをしたら、「花のことなら花の精のあたしが、教えて、あ・げ・る」と背後で声がした。振り向くと身長10cmくらいの女の子が羽もないのにふわふわ浮いていた。誓って酒は飲んでないがオレ実は酔ってたのかもしれない。「繊細な花ってどんなだと思う?」と女の子が聞く。
「うーん、儚げですぐ枯れたり萎れたりする花?」
「弱いだけでしょ」
「カラスウリのレースみたいな白い花?」
「それは悪くないわね」
「逆に繊細じゃない花ってなんだろう」
「すべての花は繊細よ」
「そうかなあ、ギシギシとかヤブガラシとか繊細じゃないだろ」
「ギシギシなんかと一緒にしないでよ!ヤブガラシはピンクとオレンジでかわいいのよ!」
女の子は急に怒りだして消えてしまった。と同時にぱらぱらと小さな四弁花が落ちてきた。ピンクともオレンジともつかない優しく繊細な色合いの、それはヤブガラシの花だった。
1年後
13歳の夏は一度しかない。来年の夏はもう14歳の夏になってしまう。それはわかってるけど14歳と13歳の違いはよくわからない。わたしはまだ14歳じゃないから。一学年上の先輩たちはたったひとつの違いなのにとても大人びて素敵に見える。きっとインスタなんかも使いこなしてるんだと思う。1年後のわたしはあんなふうになれるんだろうか。不安しかない。俯いていると母さんが「何か悩んでるのか病んでるのか中2よ!中2の夏こそは素晴らしい!おお46歳の夏だって一度しかないけどな!」と騒ぎながら酒を飲んでるので脱力した。ああいう大人ダメ絶対。
こどものころは
こどものころ、部屋の片隅に小さな赤い光がちらちらと動くのをよく見た。特に夜寝る前に明かりを消すと視界の端っこに赤い何かが揺らめいた。特に怖いとは思わなくて、ただ不思議だと思っていた。あれから何年経ったか、明かりを消した部屋の片隅には、大型犬くらいの大きさの赤いどろどろが蠢いている。あれが何なのか私は知らない。こどものころはあれが怖くなかったなんて自分で信じられない。あれをただ不思議な赤い光だと思っていたこどものころに戻りたい。
日常
6時半にアラームが鳴る。あくびしながら顔を洗って階下に降りる。洗濯機を回す。燃えるゴミの日だからゴミを集めておく。畑で茄子を採ってごま油で焼いて焼き茄子の味噌汁を作る。納豆に混ぜる用の青ネギを切る。こどもと夫と父が起きてきて食卓に座る。いつもの平和な日常の食卓に。私のなかで何かが爆発する。私はダイニングテーブルをひっくり返し、台所にあるあらゆる刃物を投げる。私の鬱屈を何一つ察しないまま私が作った飯を食べる愚かものども。
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と、ここまでは創作でここからは無駄話です。焼きナスの味噌汁は、ナスを炭火で裂けるまで焼いたのをぶっこむのが最強においしいと思いますが、一般的にはごま油で焼くのがおいしいと思います。私は豆腐も一緒に焼いて味噌汁に入れるのが好きです。出汁は煮干しの粉で簡単に。美味しいのは間違いない。でも…たまには…誰かに作ってもらいたいなあ…というのが私の普通の日常です。という文章に感心してくれたあなた! 私の文章はだいたい非道か残酷か人間無視かそんなんです。真面目にそんなんです。どうかよろしく。(よろしくするんかい!
好きな色
そこにない色が好きなんだ。具体的にいうとたとえば構造色だよ。モルフォ蝶の羽根、オパールの遊色、アンモライトの光彩、油膜、ビスマス結晶、鉄バクテリアの酸化皮膜。青にも赤にも緑にも見える、ああいう色が好きなんだ。まるでこの世にないようなそこにない色。ほら見上げてごらん、あれこそが僕が愛してやまない色、名状しがたい宇宙からの色、異次元の色彩! アーカムに落ちたあの色。きみもあの色に染まれ。