鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番、醜いのは誰?
人を嫌っているのは?
まず、相手を疑ってかかるのは?
自分の人生を呪っているのは?
誰かを「殺したい」って、少しでも考えた事があるのは?
人に責任を なすりつけようと画策した事があるのは?
人を、ことごとく愛しているのは?
人が好きで、好きでたまらないのは?
「少しくらい」なら、たとえ騙されていても
信じているのは?
日々の生活を怨み、愛しているのは?
大好きな人に、殺されてもいい。って感じた事があるのは?
人を、愛しすぎて憎んでしまうのは?
鏡よ鏡。
あなたが写すのは表裏一体。
「愛憎」ってヤツさ。
鏡よ鏡。
両の極端 は、いつも隣り合わせで
ヒリヒリしてる。
鏡よ鏡。
偽善者であり、人間くささ。
嗚呼、鏡よ。
こたえは分かっている。
つもりさ。
「お前だ!」
--だろう?
頭の中に蝿がいて、羽音が煩くてしょうがない。
「うるせえぞ!馬鹿やろう!」
悪態をつくと、少しおさまる。
俺も、蝿も生きているんだ。
俺も、蝿も。
機嫌が悪くなる。
「おい!お前は一体、何をしている」
「お前は一体、何がしたいんだ!」
罵声を浴びせる偉い人よ。
俺は、何も悪い事をしていない。つもりだ。
ただ、労働をこなすだけで。
「馬鹿やろう!仕事をしろよ!ふざけるな!お前がすべき事は、労働じゃなくて、仕事だ!」
--蝿が、煩い。
月曜日の朝礼で、俺は倒れた。
ストレスによるもので。
後日、カウンセラーに会って話をした。
「頭の中の蝿が煩いんです」。
センセィは、ただ、頷くばかり。
トラウマにすらなれない過去の記憶。
怒り、悲しみ、犯したあやまち……
いつも抱き、いつまでも抱き、捨てる事のない数々の記憶。
それらは自らの罪か。
それらは誰の罪か。
こたえの出ないまま、煙草に火をつけ
煩い蝿がいるから、余計な事を考える余裕がなくなった。
煩い蝿のおかげで、いつまでもくよくよ。しなくなった。
煩い蝿よ。
捨てきれない過去の記憶を、
その羽音でかき消しておくれ。
国境付近の映画館は、いつも大盛況さ!
国境付近のある街は、寂れちまって娯楽も何もなくて。
小さな映画館があるのが唯一の救いなんだ--。
モギリをやってるおばちゃんは、売店も兼任で。
いつもバタバタしてて文句ばっかり言ってる割には辞める気配もない。
「アタシゃ、好きでやってんだよ」って、上映中のひとときに、売店のコーラを飲み干して言うのさ。
支配人は無類の映画好きで。
水曜日と土曜日は、彼の選りすぐりの映画を、豪華3本立てさ!
アメリカニューシネマから、日活ロマンポルノまで。
はたまた東映まんがも--な、ごった煮上映。
みんな、こぞってこの映画館に行くのさ
みんな、こぞってこの映画館に行くんだ!
映写技師のおっちゃんは、ジョン・ベル-シとジョディ・フォスターのファンで
上映される日は、ちょっと、おめかししてくるんだ。
上映作品の看板を描く職人さんは
大好きな作品の時は朝メシに一品、奥さんに増やしてもらうんだってさ。
今週のレイトショーは
支配人おすすめ、マカロニウエスタン・ナイト!
先週は確か、B級ホラーナイト!
来週はYakuza&ギャング映画ナイト!
支配人
そして
ここで働く人たち。
みんなカッコいい
--だからみんな、
こぞってこの映画館に行くのさ。
だからみんな、こぞってこの映画館に行くんだ!
ドヤ街で出会った酔っぱらい。
朝からウイスキーをラッパ飲みして
そうでもしなきゃ
生きてられない
そうまでしてでも
生きてゆくのさ。
「仕事は、あんまりないぞ」と彼は言う。
「お前は、何ができる」と聞かれた。
「俺は、あんたみたいにタフじゃない」
と、言うと
「ふざけるな!お前にしかできない事を聞いてるんじゃない。
お前が出来る事を聞いてるんだ!」
ウイスキーを少し、もらった。
アツいものが喉から下がって行く。
「お前は何ができる!」
苦しまぎれに俺は言った。
「俺は、海を」
「なに?」
「俺は海を見に行く事が出来る」
男は、ウイスキーを多めに流しこみ、うなだれた。
俺は、言った。
「それも、夜に」
野良ネコが、小さくないた。
アスファルトの上の紙くず、
誰かが吐いた唾、
風で転がる空き缶、
灰皿に入れるつもりが 落っこちてった
吸殻。
誰かの話し声。
車の排気ガス。
スモッグ。
ガムを踏んで 何かに対して罵る言葉。
食べ物じゃないモノをついばむ鳩
主人と意見が合わずに 自分の行きたい方向に行きたがる犬
遊びながら歩く小学生
彼らを足早に抜いて行く大人たち
「ああ……飲みすぎた……」思わず漏れる言葉
そんな中、すごい笑顔で自転車に乗っている人を見た。
見上げた空は、涼しげ。