シャチホコばった言い方は
シャチホコばった言い方は好きじゃないから。
労働者の奏でる音が。
でかいハンマー、電動工具、重機作業中に漏れだす音が。
設けられた誘導員の、無線で応答するリズム。または、誘導棒を振るリズム。
ガタガタ、ドカドカ。バリバリ、ガチャガチャ。
トンカン、トンカン。
怒声に罵声。
人生を唄うのがブルースなら、いらない言葉を削りきった、労働者のブルース。
情熱を唄うのがロックなら、偉いさんに認めて貰わずとも、とにかくこの刹那を生きる。
そんな労働者のロック。
戦う事がパンク。戦うレゲエもしかり。
言葉はいらない。
言葉はいらない?
自分の人生、イカしたリズムで踊りたいよね。
自分の人生を、軽いステップで。
言葉を否定したくはないが
言葉はいらない
言葉はいらない……?
そして、
自分は。
そして、
キミは?
もう一度言うが
シャチホコばった言葉はいらないよ。
つくつくぼうしが鳴き始めてしばらく経つ頃。
日が昇るのが、少し。少しだけ遅くなり、日が沈むのが少し。少しだけ遅くなる頃。
残暑は、すこぶる厳しいが、空の色が薄くなり、そして高くなって来たな……と、ぼんやり見上げた。
「よぉ。DVDをレンタルしてきた。--一緒に見よう」
ちょっと待て。何年ぶり?いや、何十年ぶりで会う友達に言うセリフがそれか? 想いとは裏腹に、出てきた言葉は「何の映画?」だった。
しょうがねぇ……観ようか。嫌いな映画じゃないし。
何年、十数年。はたまた何十年ぶりに会おうが
トモダチはトモダチ。
昨日、会ったばかりじゃん。って、
さっき会ったばかりじゃん。って。
そんな感覚で会える、そんな感覚で話が始まる。
進む。
「親友」って、たぶんそんな感じ。
きっと。
突然、やって来て
「借りて来たから。このDVD」
って言われても。
だけどそんなもん、
でしょう?
死が、ポケットに入っている。
死を、ポケットに入れて歩くんだ。
良い事があった
妻の機嫌が、今日は良いよ。
笑って仕事ができた。
カッコいい車が走り去るのを見た。
お弁当のおかずが、いつもより一品多かった。
ふと見上げた空は、少し澄んで見えた。
今日は、死に向いている。と思えた。
イヤな事があった。
寝坊をした。
朝から大雨だった。
キレイな足首に見とれていたら、つまずいて転んだ。
偉いさん、今日は休みの予定なのに、変更して出勤してきた。
足の小指を、しこたま打った。
妻は、一日中ため息しか出さない。
ははははははは。
今日は、死に適している。と思えた。
普通の日もあるもんで。
何もない。
良い事もわるい事もなく、とても普通。
平凡な一日。悪くない。
明日も、生きよう。と思えた。
たぶん、死に対して良い日和だ。
今日は、もってこいだ。
ピストルがあるなら、きっと。
口にくわえる位の事もしていただろう
おっと、その前に
大好きな映画を大音量でたれ流してるモニターに銃口を向けよう
良い事も悪い事も、全てを捨てたらきっと。
きっと、死にちょうど良くて、
きっと、明日も生きている。
死を、ポケットに入れたままで。
便所掃除をしてるおばちゃんに聞いてみた。
ロックンロールって、知ってるかい?
おばちゃんは、困ったように首を傾け、言った。
「でも、アンタは優しそうな顔してるね」
おばちゃんは続けた。
「ダンナは早くに死んだ。アタシゃ、一人息子を大学にやるため……そのために、ここの汚ない便所を綺麗にしてるんだよ」
返事に困ったので黙っていると、おばちゃんはさらに、ひとりごちた。
「こないだなんかね。便器の周りいっぱいにウンコ! おまけに、クソまみれのパンツも捨てられてたさ」
「ホントに、酷い話だよ。恥ずかしくないのかね? 」
「だけどアンタ。人として、こんな事が許されるかい? きっと、すごくマトモな生活をして、他の誰からもマトモな人間として受け入れられて暮らしてんだよ! 」
深いため息を吐いてから、おばちゃんは言った。
「便所掃除をしてるアタシより、まともな人がさ! 」
ロックンロールって、知ってるかい?
--おばちゃんに聞く前に、彼女は次の便所掃除に向かった。
おばちゃん。
せめて
ありがとう、さようなら。くらいは言いたかった。
それを言う前に彼女は、
言いたい事だけ言って、
自分の仕事を遂行した。
--皆さん、
ロックンロールって、知ってるかい?
知らない街へ、行ってみたい。
あの山越えて、川を越えて。
どっかの誰かと話をしたい。
くだらない話で、盛り上がっていたい。
道がある限り、進んでいたい。
理由なんて後で、つけるからさぁ。
あの映画やこの小説に出てきた街に
主人公のように、歩いてみたい。
疲れたら、そこら辺の河原に行って、
年老いた野良犬と昼寝をしたい。
昔、観たチャーリー・チャップリンの
映画みたいに。
ひとかけらのパンを、分けっこして。
仕事終わりに近いトキ、夕日を背中に受けながら……
考えていた。
遠くの街に、行ってみたい。
あの丘を越え、谷を越えて。
海の見える街へ。
山のふもとの、街へ。
車?電車?バス?
ああ、
バイクでゆくのも、これまた。
オツなものだ。
鼓動に合わせて、ゆっくりと。
理由なんて、後で、つけるから。
理由なんて、後で、考えるから。
目的なんて、後で、ゆっくり。
色んな場所から、色んなトキに。
空を見上げていたい。
少しずつ、微妙に変わる
同じ空を。
理由なんて、後で、つけるからさぁ。