頭の中に蝿がいて、羽音が煩くてしょうがない。
「うるせえぞ!馬鹿やろう!」
悪態をつくと、少しおさまる。
俺も、蝿も生きているんだ。
俺も、蝿も。
機嫌が悪くなる。
「おい!お前は一体、何をしている」
「お前は一体、何がしたいんだ!」
罵声を浴びせる偉い人よ。
俺は、何も悪い事をしていない。つもりだ。
ただ、労働をこなすだけで。
「馬鹿やろう!仕事をしろよ!ふざけるな!お前がすべき事は、労働じゃなくて、仕事だ!」
--蝿が、煩い。
月曜日の朝礼で、俺は倒れた。
ストレスによるもので。
後日、カウンセラーに会って話をした。
「頭の中の蝿が煩いんです」。
センセィは、ただ、頷くばかり。
トラウマにすらなれない過去の記憶。
怒り、悲しみ、犯したあやまち……
いつも抱き、いつまでも抱き、捨てる事のない数々の記憶。
それらは自らの罪か。
それらは誰の罪か。
こたえの出ないまま、煙草に火をつけ
煩い蝿がいるから、余計な事を考える余裕がなくなった。
煩い蝿のおかげで、いつまでもくよくよ。しなくなった。
煩い蝿よ。
捨てきれない過去の記憶を、
その羽音でかき消しておくれ。
8/17/2023, 10:39:50 AM