towa_noburu

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8/2/2025, 11:48:22 AM

「波にさらわれた手紙」
初めて書いた、初恋の君へのラブレター。中学二年生の時だ。僕は君への思いを手紙に綴った。直接言う事もLINEする勇気もなかった。仕方なく僕は君への溢れる感情を手紙という形で、ぶつけた。
冷静になって読み返すと、恥ずかしくてたまらなくなった。一度書いたものを破る事も、憚られ、捨てたらもし家族に見つかった時に、冷やかされそうで嫌だった。僕は考えに考えた末にラブレターを瓶に詰め込んだ。そして、家から電車で乗り継いで海へ行き、そっと流した。波が僕の思いを攫ってくれると思った。もし、誰かに拾われたとしても、個人を特定するのは不可能だ。僕は相手の名前と、僕の下の名前しかひらがなで書いてないんだもの。大丈夫、大丈夫。と言い聞かせて、波に飲まれる小瓶を見送った。

その時はまだ僕は知りもしなかった。
いつかの未来に、小瓶を偶然拾った相手が、まさか彼女のおじいちゃんだったなんて。
釣り好きのおじいちゃんが偶然見つけた小瓶の中身。
孫と同じ名前が書かれていて、気になって、家に持ち帰り、彼女の目に触れる事になるなんて。
そしてその出来事を、今僕に帰り道に教えてくれるなんて一体誰が想像していただろう。
世間は僕が思うよりも遥かに狭すぎる。
僕は手に汗握った。「私と同じ名前の恋文だって、おじいちゃん嬉しそうに話すのよ。変なの。」
彼女の話を聞きながら、僕は今一度大きく息を吸った。
本当のことを言うべきか、言わずに話を流すべきか、僕の中で天使と悪魔が囁き合う。
ふられても嫌われても、僕の思いをなかった事にはしたくはなかった。それを安易にすれば自己否定する事に思えたからだ。僕の中で数年後黒歴史になってもいい。腹を括った僕は彼女の名前を呼んだ。

彼女からの返答は「今は私、誰とも付き合えない。受験勉強に集中したいから。」
というそっけないものだった、けれど僕は脳内で小躍りをした。とりあえず、僕の奇怪な行動を否定も肯定もしなかった、その優しさに救われたのだ。
もしかしたら彼女は呆れていただけなのかもしれない。
それでも僕は去り際に彼女に言われた一言が忘れられない。
「波に流しても、意外と見つけて欲しい小瓶は波打ち際に戻ってくるもんだってじいちゃんが言ってた。見つけちゃってごめんね。驚いたけど、少し嬉しかったよ。」

彼女の笑顔が好きだな…って改めて思った。

見事に振られたのだけれど、それでも僕は彼女に恋をした自分が誇らしかった。
そう思ったらまたむずむずしてきて、手紙が書きたくなった。
週末は海に行こう…そして今度は彼女のおじいちゃんに見つからないように、もっと遠くの海へ宛名のないラブレターを流そうと僕は心に決めた。

7/26/2025, 11:18:15 PM

「涙の跡」
涙は宝石だ
煌めく雫は繊細な君の心の投影
どこまでも澄んでいて曇りのないそれは
君の心が動いた証
それは深い海の底のような悲しみかもしれない
朗らかな春の芽吹きのような喜びかもしれない
荒れ狂う天候のような怒りかもしれない
涙の跡は、宝石がゆっくりと時間をかけて消えていった残骸だ
見えなくなってしまっても、確かにそこには宝石が煌めいた証がある
どこまでも澄んでいて、どこまでも美しい
君だけの宝石の跡だ。

7/25/2025, 10:19:41 AM

「半袖」
衣替えの時期は当に過ぎているのに、今年は夏服を本格的にクローゼットから出してはいない。ケースから半袖を2、3枚取り出して、他は放置だ。いつもなら、ケースごとクローゼットから取り出して、冬服と詰め替えをするのだが、今年は暑過ぎて部屋に1秒もいたくない。エアコンを入れればいいだけの話なのだが、あいにく故障している。私は扇風機で命を繋いでいた。暑さで思考が停滞する。衣替えなんてわざわざ全部変えなくても、2、3枚半袖があれば着回しで夏をこせる…に違いない。オシャレして出かける事もなくはないがそれは別だ。とにかく普段着は半袖が数枚あれば事足りる。ミニマム最高。
と思っていたのだが、「これは…想定外だ」私は頭を抱えた。半袖のシャツに漂白剤をつけたら化粧品でもついていたのだろうか、せっかくの白い半袖がピンク色のマダラ模様で全滅だ。
端的に言えば、おわった。
私は重い腰をあげて、衣替えすることにする。
クローゼットの扉をあけて、ケースを置くから引っ張り出す、しかし…「あ、腰が」
慣れぬ力仕事に腰が悲鳴をあげた。
そのまま起き上がれずに、ギックリ腰となり、実家の母にSOS,なんでこんなことになったんだろ。
全ては衣替えのせい?いや違う。
暑さのせいだ!
そう、締めくくりたいと思う。

7/25/2025, 9:45:49 AM

「もしも過去へ行けるなら」

過去の過ちを正すことができたのならば、それはもう別の人生なのだろう。選択一つ一つで、パラレルワールドは広がっていく。もし過去を変えたのなら、どこかの今の歯車が狂い出す。
後悔は蜜の味がする。ねっとりと何度も指に絡みつくそれは甘美な毒かもしれない。
それでも、どんなに溺れても歩みを止めなければ、何かしらの地点には着くのだろう。どん底を経験したら這い上がるだけ。だから、私は過去に戻れたらきっと傍観するのだ。過去に干渉する事なく、痛みに耐えろと自分に言い聞かす。それは今現在自分が不器用ながらも前向きに生きているからこそ言える言葉だろう。

過去に絶望し苦悩し挫折したとしても
過去の自分が精一杯生きた事を否定しないで。
余談だが過去にもし戻れたら、私は故人達に会いたい。それもまた幻想だが。願わずにはいられない。

7/14/2025, 10:55:23 AM

「夏」

怖い話をすると肩がすぐ重くなる。
映画でもホラーだけは絶対に見れない。
そんな僕なのに、何故か今遊園地のお化け屋敷の列に並んでいる。
僕の隣で彼女は今か今かと入場を待ち侘びていた。
今更、お化け屋敷やめとかない?と言える空気ではない。ましてや、彼女ともっと親密に密着できるチャンスを逃すのも躊躇われる。しかし、怖い。
正直、怖くて今にも手が震えている。
それを彼女に悟られないようズボンのポケットに手を忍ばせた。
「次の方」
「やっと順番きた〜」
彼女が嬉しそうに前へと進む。
「あ、静奈ちょっと待って!」
「何よ、真也ビビってんの?」
彼女は暗い通路の中をぐんぐんと進んでいく。
「そ、そうじゃない、そうじゃないけど!…危ないから一緒に行こ。1人で行くなよ。」
内心1人で暗闇の中で置き去りにされるのが耐えられなかった、という本音は伏せて僕は答えた。
「…そうか。…うん、わかった。一緒に行こ!」
静奈は少し驚いたが嬉しそうに返事をした。
そして僕の腕を掴んだ。
「!」
「さぁ、気を取り直して出発!」
彼女の髪の優しい匂いが鼻をくすぐった。
至近距離で彼女と密着するのはこれはこれで…別の意味で緊張した。
「イーヒッヒッヒッ、お二人さんお熱いねぇ〜」
最初に化けて出てきたのはなんとまぁ西洋チックなお婆さんだった。
彼女は爆笑している。
「なんで…魔女が出てくんの?!やばすぎ」
「…和洋折衷のお化け屋敷なんじゃないの。」
僕は冷静に分析した。そして脳裏にとある懸念がよぎった。和洋折衷となると、次にどんな仕掛けが来るのかまったく予想がつかない。
恐ろしさが2倍ましである。
次の暗い通路を抜けると、蝋燭が沢山並んだ部屋に出た。
「この蝋燭が消える頃がお前たちの最後だ……」
突如後ろから襲いかかる、忍者。
え、なんで忍者…?忍者お化けじゃなくない?
僕のツッコミはよそに彼女は忍者の繰り出す手裏剣を颯爽と避けた。…つまり全てのゴム手裏剣は僕の顔面に当たった。
「打ちとったり〜」
忍者は声高々にそう叫ぶと暗闇へとまた消えていった。
「…なんでもありだな…」
「あはは、面白い〜。さぁ気を取り直して進もう!」
そんなこんなで、僕たちは、お化け屋敷を進んで行った。
ある時は池の河童に胡瓜をやり、またある時は狼男と一緒にロックに叫んだ。
彼女は相変わらず僕の腕を掴みながら、勇猛果敢に進んでいく。
その姿はまるで後光がさすようだと僕は感じた。
それほどまでに彼女は迫り来るお化け屋敷の住人達を軽くあしらい、笑顔でくぐり抜けていったのだった。
なんていうか僕の彼女。
華奢な見かけによらずこんなにもかっこよかったんだ…と逆胸キュンしてしまうほどだ。
「あんまり怖くないし、楽勝だね」
「………そう、だな…」
いよいよお化け屋敷は最後の通路に差し掛かる。
そこには、何もなくただひとつ、台の上に宝箱があるだけだった。手前に鍵を見つけると出られるとだけ書いてあった、
「これなんだろう…」
彼女は不思議に思い、手を伸ばしかけた。
「あ、まて、なんか見覚えがある…これミミック的な奴なんじゃ…?」
「ミミックって何?」
彼女は漫画とかアニメそんな見ないもんな…わかるわけなかった。
彼女は疑問に思いながらも、宝箱を開けてしまった。
「危ない!」僕は寸前のところで、彼女の手を引き、代わりに自分の手をミミック(仮)につっこんだ。宝箱は僕の手を中から引っ張り掴んで離さない。僕は最後の力を振り絞り、宝箱の中から鍵を見つけた。
その鍵を彼女に放り投げた。

彼女と僕はミミックの中にあった鍵で無事出口へと辿り着いた。
結局最後はミミックから捕まった僕の手を彼女が引っ張り出して事なきを得た。

「面白かったね!」
「…カッコ悪いとこ見せちゃったな…」
僕が罰が悪そうに言うと、彼女は首を横に振った。
「ごめん付き合わせて、…苦手なんでしょ、実は怖いの。」
「え」
「見てればわかるよ。でも一緒に回れてよかった。」
彼女はふんわりと微笑んだ。
僕はその笑顔を見て疲れや恐怖が吹っ飛ぶのを感じた。

暑い夏のちょっとしたひと時、苦手に挑戦するのもたまには悪くないかもしれない。
恐怖に暑さを忘れて涼む事ができたのは事実だ。


それでも、なんとなく肩は重くなったのだが。
……家帰ったら、肩に塩振ろう。
そう決意しながら、僕は彼女に微笑み返した。
 

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