割と本気で前世を信じていた。前世の恋人に本気で会えると信じていた。けど、ある日唐突に悟ってしまった。前世はある、かもしれない。けれどどうも俺の前世の知り合いは少なくともこの国、いやこの星にいないかもしれない。絶望した。しかし悪いことばかりじゃなかった、全ての出会いが初めてで新鮮味を帯びたからだ。かつて俺を好きになってくれた人へ、最大限の感謝と愛を込めて、俺は君のいないこの土地で人生楽しもうと思う。あの時一緒にいてくれて好きになってくれてありがとう。君以上に好きになれる人が見つかるかはわからない。けれど、君を呪縛ともしたくないから、俺は前に進んで今を生きるよ。
頭で考えて、自分の妄想力に正直ひいてしまったが、同時に胸が苦しくなった。
前世、果てしない時の中で、いつかの俺は生きたのかもしれない。そして、俺のことだから人を愛して死んだんだろ。そう、もうすべては遠い遠い輪廻の果てに、忘れ去られたカケラなんだろな。
深い海の底で響くであろう歌声。鯨達の流行歌、今はなんだろう。
僕は今週の音楽チャートから選んだ曲を聴く。
頭の中で鯨達が大海原を踊り泳ぐ。
貴方の中の涙もいつか時がくれば海となり、山に降り注ぎ、循環していくだろう。
「あの泣き虫さんがずいぶん遠く…にいってしまったね。」過去を懐かしみつつ寂しそうに老婆は呟いた。
「村で1番泣き虫で、けど誰よりも優しかったあんたがね…… 今じゃ街で誰よりも怖い役人だって言うじゃないか。」
「…無駄話をする時間はない、失礼する。」
そう言って、老婆を遮り私は村の通りを進んだ。
老婆は私の後ろ姿をじっと見つめながら、ぼやいた。
「いつかまたその心が優しさで満ちる日が来るようにお天道様に祈っとくよ。それが、あんたのためさ。」
余計な、お世話だ…と思った。振り返らずに私は歩みを進めた。
優しさだけでは飯は食えない、身をもって知った事だ。優しいだけでは、自分も誰も救えない。
それなのに、どうしてか……あれから、あの老婆の言葉が頭に焼き付いて離れない。
私のために祈ってくれる人が、この世界にまだいたのかと、その事実が思いの外嬉しかったのだ。
「私、嘘つきだよ?」
「知ってるよ。」
そう言って、手を握り返した君はどこまでも温かった。その優しさに、溶けてしまうよ。