今は亡きばあちゃんの和ダンスの中から手紙を見つけた。
不思議な手紙だった。
「未来の私の孫へ
この手紙を貴方が読める頃には、私はもうこの世にいないでしょう。
これだけは言わせてほしい。
あんたはね、無数の愛に包まれて生きてるんだ。誇っていい。沢山のご先祖様があんたの命を繋いだんだ。
あんたを心から愛しているよ。
追伸。ばあちゃんの和ダンスの中には、ばあちゃんのへそくりはありません。」
最後の追伸で、思わずくすっと笑ってしまった。ちぇ、ないのかよ。
ばあちゃんに心の内を見透かされた気分だ。
懐かしい、笑い声が後ろから聞こえた気がした。
通話越しに言った。「バイバイ。」
またね、とは言えなかった。
だってこれが最後だから。
彼女は小学校以来の友達で親友だと思っていた事もあった。
けど、明日からは他人、なんだよな…。
些細な事がきっかけで喧嘩になった。
私はその時に水面下でずっと彼女の自己中さに我慢していた自分を改めて知った。
自分の醜い感情が表に出た時、何より自分に嫌悪感を感じた。
消してしまいたい…。
全部、この感情も、彼女の存在も自分の中から消してしまいたい…。
そんな衝動に駆られた。いわゆる、リセット癖かもしれない。
その後すぐに行動に移した。
彼女の連絡先をブロック。
幸い、通っている大学は違うから、疎遠になればそれまでのことだと思っていた。
けれど、彼女は思わぬ行動に出た。
付き合いが長いからこそ、知っている家の電話にかけてきたのだ。この時ばかりは、実家暮らしを恨んだ。
私が「バイバイ。」
と言った後、彼女は少し間をおいて返事をした。
「…縁があったら、またね。…だって、未来はわかんないじゃない?」
その問いに返事をしないまま、電話を切った。私は自分が泣いていることに驚いた。
自分から縁を切ったのに。今更、なんだろう。涙が溢れ出てくる。
ごめんなさい、は今の未熟な私には言えない。けれど、彼女の言うように、もし未来、縁があればまた2人で心から笑い合えるんだろうか。
わからない。答えは誰にもわからない。
窓の外は、幾億と言う星々が毎日、生まれては死んでいく。
胸が押しつぶされそうな私を美しい綺羅星は
嘲笑うかの如く、地上を照らした。
旅の途中、神社からみた空に心を奪われた。黄昏時?いや逢魔時かもしれない。
胸の内がざわざわするけど、あまりの美しさにうっとりもしてしまう。
空のキャンバスはいつだって変幻自在だ。
君は僕の本性をまだ知らない。
安っぽい笑顔で簡単に騙される君が逆に心配になる。
本当はね、僕は君だけに優しいわけじゃないんだ。僕の言葉は全てが天邪鬼。
だけど君が望むなら、今宵も語り合おう。
内容のない晩餐会を開こう。
どうか、君がいつか僕といた時間を「人生損した」と気がつきますように。
ずっと日陰だけを歩くような人生だった。
今更日向に出ようとは思わない。思えない。
ただ僕は街の木の隙間からわずかに差し込む光だけは昔から嫌いじゃなかった。
薄暗い街の隙間に息苦しそうに生えている桂の木。樹木医に見せたら、深刻そうな顔をするかもしれない。
桂の木の木漏れ日はどこか憂いを帯びた顔をしているが、その陰りが僕には心地よかった。
陰鬱そうに、街を見渡す桂の木。
息苦しいか、苦しかろう。
なあに、僕も君と同じだよ。
決して、この街からは出れないが
生ある限り根を張ろう。
命潰えるその日まで。