深い海の底で響くであろう歌声。鯨達の流行歌、今はなんだろう。
僕は今週の音楽チャートから選んだ曲を聴く。
頭の中で鯨達が大海原を踊り泳ぐ。
貴方の中の涙もいつか時がくれば海となり、山に降り注ぎ、循環していくだろう。
「あの泣き虫さんがずいぶん遠く…にいってしまったね。」過去を懐かしみつつ寂しそうに老婆は呟いた。
「村で1番泣き虫で、けど誰よりも優しかったあんたがね…… 今じゃ街で誰よりも怖い役人だって言うじゃないか。」
「…無駄話をする時間はない、失礼する。」
そう言って、老婆を遮り私は村の通りを進んだ。
老婆は私の後ろ姿をじっと見つめながら、ぼやいた。
「いつかまたその心が優しさで満ちる日が来るようにお天道様に祈っとくよ。それが、あんたのためさ。」
余計な、お世話だ…と思った。振り返らずに私は歩みを進めた。
優しさだけでは飯は食えない、身をもって知った事だ。優しいだけでは、自分も誰も救えない。
それなのに、どうしてか……あれから、あの老婆の言葉が頭に焼き付いて離れない。
私のために祈ってくれる人が、この世界にまだいたのかと、その事実が思いの外嬉しかったのだ。
「私、嘘つきだよ?」
「知ってるよ。」
そう言って、手を握り返した君はどこまでも温かった。その優しさに、溶けてしまうよ。
今は亡きばあちゃんの和ダンスの中から手紙を見つけた。
不思議な手紙だった。
「未来の私の孫へ
この手紙を貴方が読める頃には、私はもうこの世にいないでしょう。
これだけは言わせてほしい。
あんたはね、無数の愛に包まれて生きてるんだ。誇っていい。沢山のご先祖様があんたの命を繋いだんだ。
あんたを心から愛しているよ。
追伸。ばあちゃんの和ダンスの中には、ばあちゃんのへそくりはありません。」
最後の追伸で、思わずくすっと笑ってしまった。ちぇ、ないのかよ。
ばあちゃんに心の内を見透かされた気分だ。
懐かしい、笑い声が後ろから聞こえた気がした。