うちの学校の七不思議。
いや、七つもないんだけれど。
不思議なこと、が起きた。
先月のこと。
先生が、突然、“クラス写真”を撮るといいだした。
高校2年の10月なのに。
とくに、何も無い、ごく普通の日だったのに。
委員長のハナから、さっきLINEで届いたのがその写真。
“わざわざ机と椅子を下げて撮ったな〜”、とか。
“めんどかったよね〜”、とか。
そんな話に、とりあえずなった。
で、そのあと。
すぐあとに。
“……ねぇ、これ”
たしかエリナが言い出したんだっけ。
写真の端っこ、窓側の方。
カーテンがちょっとゆらゆらしてたとこに。
誰か写ってる。
西日だったのもあって、光がかかりまくってたんだよ。
たしかに先生、古めのスマホで撮影したし、機械音痴だから、お世辞にもキレイな写真とはいえない。
ただ、
その端っこのところだけ、妙に、部分的に逆光が強かった。
ほんとに、“誰が写ってるか分からない”くらいに。
まぁ、一人一人、写ってる人を見てけば、消去法で分かるじゃん。
と思ってた、みんな。
ただ、その写真を撮った時って、ホームルームの最後だったから、何人かは帰ってたんだ。
だから、誰が残ってたか、誰が帰ってたかを把握出来ないと、それが誰かわかんないんだ。
だから、わかる範囲で特定を始めた。
ギリ下半身は逆行を逃れてたから、スカート下の脚の形はわかる。
この白い足は、誰のものだろうか。
んー……
んー……
ん?
待って、いやこれも不思議なんだけどさ。
そもそも、先生はなんで急に“写真撮る”なんて言い出したんだろ。
なんでもない日に。
思い出作り?
いや、まだ卒業まで1年あるし、気早くない?
けっこう先生って寂しがり屋?
可愛いかよ。
あ、1人でテンションあがっちゃってた。
ごめんごめん。
―――あれ。
わたし、誰と話してる、、、?
「先生、写真みんなに送っておきました」
「お、ありがとう。よく撮れてたかな?」
「いえ、下手だって言われてますよ。ブレすぎだって」
「いやー、手厳しいな、みんな。やっぱスマホって難しいな」
「あと、机動かすの大変だったーって」
「そうしないと、みんなの写真撮れないから仕方ないだろー」
「机って女子には重いんですよ、運ぶの大変だし。とくにヒカリの机は動かすの大変でしたよ?
みんなでそ~っと運んだんですからね。
花瓶はどかして運んだけれど」
「すまんすまん、きっとヒカリも、みんなが気遣ってくれたのに感謝してると思うぞ」
「……一緒に撮りたかったな。ヒカリと仲良かったから」
『ぜったいに見てはいけない』
とだけ、書かれている。
表紙には、それだけ。
30ページほどの厚さしかない、ただのA4ノート。
なのだけれど、「何の変哲もない」とは言い難い、なにか重々しい空気を漂わせている。
裏返すと、氏名欄には
『数年後のわたし』
と書いてある。
未来の自分へ向けたタイムカプセルの一種に、未来日記というものがある。
現在の自分から、まだ見ぬ先の自分へ向けたメッセージである。
その類いだろうか。
それにしては、新品同様の風体だ。年季も入ってない。紙も白く輝いているようだし、ほつれや汚れも見当たらない。
ただ単に、表紙と裏表紙に、
『ぜったいに見てはいけない』
『数年後のわたし』
とだけ書いただけの、ただそれだけのノートなのかもしれない。
誰にでもできる。
単純なノート。
はたして、そうか?
それだけのノートか?
思い切って、めくってみよう。
1ページ、指でつまみあげる。
指先がずっしりと重い。気がする。
ペラリッ
白紙だった。
まっさらだった。
次のページをめくってみる。
白紙だった。
また次も、次も、次も、白紙だった。
新品のノートと同様だった。
何も書かれていない。
ただのノートだ。
それに表紙と裏表紙を書いただけだった。
なんでもないはずだ。
たかが、つい先日、息を引き取った娘の。
ただの、閉じたノートだ。
「おい!どうなってる!現状を報告しろ!」
「分かりません……ただ、隣国からの攻撃だという連絡があります」
「なに?軍事攻撃か」
「はい、我が国に向かって、無宣告の奇襲です」
「くっ、、こんな年の瀬に。おい、全国民に緊急避難警報だ!近隣の住民を優先に、安全な場所へ移動を―――」
「少佐、お待ちください!いま、国境付近から連絡。どうやら今回の攻撃は、何かしらの化学攻撃であると分かりました!」
「な、なに?化学攻撃?」
「はい、ある種の物質を空気感染させる。一種の『ガス』のようなものによる攻撃だと……」
「っ!!『毒ガス』か?!」
「分かりません……ただ、かなりの速度で散布が進んでいるようです。正体が判明するまでは、あまり移動をしないほうがいいかと」
「そうだな。よし、全国民に緊急放送だ!
《隣国より謎の攻撃!『ガス』のようなものだとかんがえられる!速やかに室内にて安全を確保し、外気を室内に取り入れるな!!》」
「……あなた、見て」
「お、おい。何してる、早く寝室に戻ろう。窓の近くは危険だ、何かわからないんだから」
「いえ、あれを見て。あの木よ、ほら」
「え?木がなんだって?…………おい、どうなってる」
「あれだけじゃないのよ、奥の道の街路樹だって」
「!本当だ、全部『枯れ落ちている』……。ついさっきまで黄色の葉っぱが茂ってたのに、全部はらはらと……」
「ねぇ、あなた。いったい私たちどうなってしまうのかしら……。私、怖いわ」
「おいおい、泣かないでくれ。僕にだって分からないよ。ただ、外は危険だ。はやく奥の寝室へ戻ろう。戸締りも確認してな。
……しかし、これは一体、何が起きてるんだ」
「木が枯れている?」
「はい、国境および各地の施設より報告がありました。急速に、国中の森林が、その葉を落として枯れ木になっていると」
「あの『ガス』のせいか?」
「おそらくは、そうかと。今、研究部門が物質の解明を急いでいます」
「……よし。結果がわかり次第、早急に報告してくれ。残りの人員は、国民の避難・保護にまわれ!外出中の国民を、むやみに室内へ戻すな!保護施設の方へ一時避難だ!」
《――ジジッ――ジッ―――
聞こえ……るか……?こち……調査隊。隣国……より連絡……》
「こちら本部、周波数を合わせる―――
よし、調査隊、報告しろ」
《こちら調査隊。隣国の軍事施設にて、今回の攻撃について情報が分かった。
どうやら、『空気感染する物質』を用いた大規模なテロだということは分かった》
「空気感染……、細菌兵器か?もしくは生物兵器?」
《それは分からない、ただ、目的は我が国の弱体化のようだ。混乱を招き、国の機能を麻痺させようしている。政治的な理由もあるかもしれないが……
ん?待て、これは?》
「どうした?何があった?」
《今、施設にて資料を発見した。どうやら今回の攻撃についてのものだ。
“本攻撃による隣国の被害は、ほぼ全ての生命体に及ぶものとなる。動植物の生体機能の一部を停止させるだけだが、近い冬の寒波がそれにとどめを刺す。あらゆる者は、次の春を迎えられないだろう。
作戦名は、―――『木枯らし』”……》
「あなた、もぅ寝ましょう」
「……そうだな。また明日」
「えぇ、おやすみなさい」
「……」
「……」
―ハックションッ!!―
「!!少佐!研究チームより報告が上がりました!」
「なに!よし、すぐに教えてくれ」
「はい!今回の物質に関しての報告書によると……、《空気感染による生体の影響を及ぼし、吸気・接触を問わず感染します。正体は不明で危険な物質と考えられますので、引き続き外出を禁止させてください。ただ、致死性のものではない》そうです」
「……ぉお、それはまず一安心だ。ん?だとするとどんな危険が?」
「それなんですが……報告書には《風邪耐性の弱体化》と」
「ん?風邪?」
「はい……危険な項目にはそれだけが」
「つまり、風邪をひきやすくなる。ということか?」
「そういうことだと思います。本当ならば……」
「いやまて、『国中の木が枯れたんだぞ!』。それだけってことはないだろう。もしかしたらまだ見ぬ危険性があるかもしれない。引き続き調査を――」
「……研究長。あの報告書、あれでよかったんです?」
「何か問題か?」
「いや、いくら致死性がないからってあの書き方だと、強めの風邪ウイルスみたいじゃないですか?」
「……じゃあなんて書けばよかった?」
「……んー」
「よく考えてみろ。報告できるか?あの少佐に。この物質は、『生き物をハゲさせる物質』ですって」
「……無理ですね。我々が国を上げて研究している『ハゲの特効薬』に1番、期待をしてますから」
「まぁ、普段の研究データのおかげで、すぐに物質の解析がでしたのが、せめてもの救いか……」