メガネの人

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『ぜったいに見てはいけない』

とだけ、書かれている。

表紙には、それだけ。

30ページほどの厚さしかない、ただのA4ノート。
なのだけれど、「何の変哲もない」とは言い難い、なにか重々しい空気を漂わせている。


裏返すと、氏名欄には

『数年後のわたし』

と書いてある。


未来の自分へ向けたタイムカプセルの一種に、未来日記というものがある。
現在の自分から、まだ見ぬ先の自分へ向けたメッセージである。

その類いだろうか。


それにしては、新品同様の風体だ。年季も入ってない。紙も白く輝いているようだし、ほつれや汚れも見当たらない。


ただ単に、表紙と裏表紙に、

『ぜったいに見てはいけない』
『数年後のわたし』

とだけ書いただけの、ただそれだけのノートなのかもしれない。

誰にでもできる。

単純なノート。



はたして、そうか?

それだけのノートか?


思い切って、めくってみよう。
1ページ、指でつまみあげる。

指先がずっしりと重い。気がする。

ペラリッ




白紙だった。

まっさらだった。


次のページをめくってみる。

白紙だった。

また次も、次も、次も、白紙だった。


新品のノートと同様だった。

何も書かれていない。

ただのノートだ。
それに表紙と裏表紙を書いただけだった。


なんでもないはずだ。


たかが、つい先日、息を引き取った娘の。
ただの、閉じたノートだ。

1/18/2023, 12:43:24 PM