細い首に手を掛けられた状態の
霞んでゆく視界と意識の中で
最期に聞こえた謝罪のことば
#ごめんね
真夏のある日に思い出す。
蝉時雨の中であの子と遊んだ夏休み。
半袖から伸びる腕は健康そうに日焼けして。
“バイバーイ!” “またね!”
そう別れたのが最後の記憶。
遊び場所で待っていても、新学期が始まっても、
あの子に会う事はなく、大人たちに聞いてみても、
あの子が最初から居なかった様にはぐらかされる。
何処かへ消えてしまったあの子の顔は
今では薄らぼんやり浮かぶだけ。
嗚呼…あの子の名前はなんと言ったか…
#半袖
組み敷かれて嬌声を上げる女を見下ろして
無心で行為を進めてゆけば、恍惚とした女が囁いた。
“愛しているわ”
何人からも言われたその言葉。
いつもの様にこう返す。
“キミが1番だよ”
天使の皮を被った悪魔に堕とされた女が進むその先は
#天国と地獄
職場と家との往復で追われる毎日に、
願い事をする余裕も無ければ、やりたい事も浮かばない。
カーテンの隙間から注ぐ月明かりで浄化をする様に
疲弊仕切った身体を寝台に沈めた。
--今はただ眠らせてください…
#月に願いを
ある所に天を衝く高さの塔がありました。
そこには墓守が1人で住んでいました。
「なァ。お天道さんよ、ちったぁ泣きすぎじゃあないかい。
塔の中の墓ごとみぃーんな持ってっちまったのに
まだ、足りやしないかい」
空がずっと泣いているので、元々あった町や村、塔の中までも
水に沈んでいたのです。
“恵の涙”と有難がっていた人達も湖や川が氾濫し始めたので
たくさん儀式を行い、贄を捧げても空が鎮まる事はありません。
それからたくさんの人達が水に飲まれたり自らを捧げる人がいて
墓守は忙しく過ごしていましたが、気付けば自分以外
誰も残っていませんでした。
「オレもそっちに行きゃあ満足するかねェ?--そうかい」
墓標となった塔が佇む世界は静かに水を湛えていました。
#降り止まない雨