漂泊

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10/22/2024, 7:07:08 AM

声が枯れるまで

 部屋に一人篭って青白いモニターの前でキーボードをカタカタやってる。テレワークになって2年は経っただろうか。ただ家で仕事をしているだけなのに曜日感覚や時間経過の感覚が薄れていくのは何故だろう。一人暮らしでテレビもない。触れるメディアといえばSNSか。耳が淋しければラジオを聞くこともあるが毎日決まった時間に聞いている訳でもない。本当にただの気まぐれ。
 これといった矜持がある訳でもない仕事を毎日決まった時間、カタカタやったら日が暮れている。味なんてあったものではない。無味無臭の劇薬とは己そのものかもしれないと、まるで思春期特有の尖った自我の総称のようなことを思う。それとは真逆で、このままでは風景に同化して消えてなくなってしまいそうなくらい、自我が薄れているようにも思える。こういう時に湧き上がるのが承認欲求なのかもしれない。自分はここにいると誰かに証明してほしい。気づいて欲しい。手っ取り早く済むのはSNSかもしれないが、あれもまた知識と技がないと中々バズれない。と、なると自分の承認欲求を満たすにはどうすれば良いのか。
 ただ目の前の画面に向かって叫ぶ。声が枯れても知るものかと、自分でも驚くような大声で叫ぶ。すると隣室からドォン、という怪獣が一歩踏み出したかのような音が聞こえる。ああ、今日も居てくれたか。
 玄関の方でカタリと何かが投函される鳴る音がした。モニターの隅にあるデジタル時計を見れば丁度15:00だった。一休みするかとポストを開いて見ればA4サイズのコピー用紙に赤いクレヨンで「67てん」と書かれていた。この前は「40てん」だったから、評価が上がったようだ。ミミズの這ったような字からして子どもだろうか、割と辛口だ。しかしいち叫び手として評価を得られることを素直に喜んでしまっている自分がいる。この波風とは無縁の凪のような生活の中では既にかけがえのないもので、隣室の誰かにとってもそうであったら良いと、密かに願っている。

10/6/2024, 4:25:02 AM

見つからないものが空を見上げたらあった

星座

10/5/2024, 12:02:43 AM

踊りませんか?

 暑気払い。久しぶりの畳の感触をじっくり味わう余裕もなく、ひたすらに酒を煽り何かを忘れようと必死だった。意図している訳ではない。自然と体が動いていた。周囲に囃し立てられても気遣う声をかけられても意に介さず、ただひたすらに。チェイサーなんて思考の埒外で、まだ30分も経っていないのにビールジョッキが4,5杯並んでいた。
 周囲でガヤガヤ言っている連中に分け入ってアイツがやってきた。隣に座っている後輩を払いのけ有無を言わさずドカリと腰を下ろす様はどう見ても酔っているようだった。開口一番「八つ当たりか?」と。ああ、そうかもしれない。これは得体の知れない何かに対する行き場のない気持ちへの八つ当たりなのだ、と酩酊し始めた頭でぼんやり思った。するとアイツはこちらの手を強引に握り立ち上がらせようと引っ張り上げてきた。何をするのかと声を上げれば「んなもん、踊らにゃそんだ!」と。無論ダンスなんて学校行事でしか経験がない。なので「それも楽しいかもな」と思ってしまった自分はどうかしていて、立ち上がり衆目に晒されながらもアイツに合わせて体を動かした。すると、まるで導かれているかのように足が動きだした。いつの間にか座布団やテーブルが片付けられていた。動くたびに畳に靴下が擦れ、これは店に怒られるかもなと薄ら思った。でも、楽しい。調子に乗ってたくさん踊った。サルサ、スローフォックストロット、ブレイク、コンテンポラリー、など。自分はこんな動きまでできてしまうのか。アイツとならどんな世界でも行けそうな気がしていた。

 そこからの記憶はなく、気づいたら自室の布団の中。頭がどうにかなりそうなくらい痛い。習慣化された少ない動きで寝床に備えられていたスマホを取るとちゃんと自分のものだった。LINEを開くと幾つか届いているなかで、アイツからのスタンプが押されただけのメッセージが目に入った。既読するか迷い、痛い頭で親指を長押しする。そこには知らないキャラクターとともに「踊りませんか?」と戯けた文字のスタンプが。すぐにメッセージ画面を開き「覚えてない」と返す。すると透かさず返信が来る。「踊りませんか?」と。何度も何度も来る。アイツは気が触れたのか。いや、いつものことかもしれない。放っておくことにした。とりあえず薬を飲んで寝よう。これから先、何かが起こる予感に期待を込めて。

9/30/2024, 10:14:57 AM

きっと明日も自分を裏切り続けるんだろう
きっと明日も知らないふりをするんだろう
知っているくせに
知っているくせに

きっと明日も

9/29/2024, 11:27:45 AM

頭の中がやたらと騒がしく
心臓から血潮が溢れる音がする
耳を塞ぐように
声を上げてしまいたくなる

静寂に包まれた部屋

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