自然と意識が浮上して、そっと目を開ける。恋人が分厚いカーテンを引いた室内は暗く、外の時間を悟らせないが、長年の習慣からいつも同じくらいの時間に目が覚めるようになっている。
身を起こしても傍らの恋人はまだ眠っていて、それもいつものことだ。ジェレミアより三つ程歳下の男の寝顔は存外あどけないもので。初めのうちはジェレミアが目覚めると彼も目を覚ましていたが。いつの間にかこうして寝顔を拝めるようになった。彼は幾分夜行性らしく、自然に起き出してくるのはジェレミアよりも少し遅い。
彼とこうして並んで眠る日が来るとは、以前の私には想像も付かなかったことだろう。身体を重ねるようになったことよりも、2人の関係に『恋人』という名前が付いたことよりも、それが一番不思議だった。
「メリークリスマス」
先に帰宅していたルキアーノがソファに掛けたまま腕を伸ばしてワインボトルを振った。ちゃぷりと音を立てるそれは既に中身を半分程減らしている。
「帰りの連絡は入れただろう」
瓶に貼られたラベルが今日のために用意した良いものだと告げている。言外に抗議を滲ませるがルキアーノは喉で笑っただけだった。
全く、とひとつ息を吐いて着替えに向かう。幾分ラフな格好になって戻れば、ローテーブルにはもう一脚のグラスと栓の開いていない瓶が用意されていた。そんなことだろうと思った。しかし酒しかない机上に顔を顰める。
「また君は」
「良いだろう?ワインなど私にとっては主食のようなものだ」
『吸血鬼』なんて褒め言葉ではないニュアンスの方が強いだろうに。だが彼は随分気に入っているらしいのは決して虚勢ではない。
「吸血鬼殿はこういったものもお好きだろう」
生ハムをサーブしてやればすっと手が伸びる。自分の分のグラスにワインを注ぐとどちらからともなくグラスが合わさって涼やかな音を立てた。
「メリークリスマス」
帰宅した時に掛けられた言葉に返す。
「吸血鬼もクリスマスを祝うのだな」
「私が神を畏れるように見えるのか?」
「いや全く」
クレアの視線に気がついて、ペロスペローは彼を見やった。何か気になるものでもあったろうか。ずっと陸で暮らして来たらしい彼は、船にはあまり馴染みが無いようだから。ペロスペローがすぐに通り過ぎてしまったところも、彼には気になるのかもしれない。何か言いたげにしているのを、「どうしたんだ?」と尋ねてやると、しばらくもじもじした後に口を開いた。
「ねぇ、ペロスペロー。僕ら、友達?」
ぱちりとひとつ瞬く。
「そうだろ?」
急な問い掛けに驚きつつも肯定してやれば、クレアは「そっか」と呟いてふわ、と笑った。そういえば、弟達に友達の話はしても、直接彼にそう言ったことは無かったように思う。これまで友達なんて作らなかったからうっかりしていた。