「愛する、それ故に」
わたしは彼をこれからもずっと愛していくと決めた。
「決めた」って言い方はおかしいかしら。
いいえ、少なくともわたしにとつてはとても自然なこと。彼は愛するに値するひと。だから、彼の素敵な部分をいつも引き出せるように、自分のことも同じくらい愛してあげるのだ。彼の前で素敵な自分でいられるように。
そうすれば、「素敵なふたり」はずつと愛し合っていられるはずでしょ?
とってもシンプル
だけど努力が必要よ
「静寂の中心で」
カーテンを開ける
ケトルのスイッチを入れる
足元に寄ってきた飼い猫を撫でる
いつもと同じ朝
淹れたコーヒーをサイドテーブルに置いて
ソファに座る。読みかけの小説を開くと、
静寂がわたしを包み込む。
わたしだけの時間
あるのは静寂だけ
この静寂こそが、今日のわたしのチカラになる。
わたしは、限りあるこの時間を大切に抱きしめる。
「ママー・・・」
静寂に別れを告げ、わたしは今日へ向かう
moonlight
月明かりの下を、手をつないで歩いた。
慣れない浴衣で
いつもの速さで歩けなかったけれど
月明かりが私たちを照らしてくれたから
私たちは2人ではぐれることにした。
「誰かいませんか?」
お母さんからもらったお小遣いを握りしめて、訪れた近所の古びた本屋さん。恐る恐るカラカラとなる引戸を開けて店内を覗くと誰もいない。僕は、勇気を出して呼びかけてみた。
返事はなく、誰も出てこない。
だけど、ここで諦めるわけにはいかない。目的の本を手に入れないことには家には帰れない。おはぎを買うためのお小遣いを稼ぐために、この1カ月間欠かさず、夕食の片付けと皿洗いをやった。サッカーの練習で僕がどんなに疲れていようと、お母さんは容赦なく汚れたお皿をそのまま置いてあった。
(こんな日くらいやってくれたっていいのに・・・)
不機嫌になりながら、ガシャガシャとわざと大きな音をたてながら洗ったこともあった。なぜそこまでしてがんばったのか。それは、入院している僕のおばあちゃんのためだ。畑仕事の帰り道で転んで骨折している。いつもぼくの味方でいてくれるおばあちゃんに、好物のおはぎを届けるのだ。
今度は、さっきの2倍くらい大きな声で呼んでみる。
「すみませーん!誰かいませんかー?」
すると、奥のほうからおばちゃんがバタバタと暖簾をくぐって出てきた。僕は、おばちゃんの顔が見えると同時に、「おはぎありますか?」と聞いていた。おばちゃんがガラスケースの前をのぞき込むと同時に、僕も同じほうを覗き込む。だけど、「おはぎ」と書いてあるそこにはももうなにも残っていなかった。僕はがっかりして、小銭を握りしめて俯いてしまう。するとおばちゃんは、くるりと踵を返して奥に引っ込んで行った。
しばらくして、おばちゃんはプラスチック容器に入った3つのおはぎを持って戻ってきた。「はい、どうぞ」と言って、それをカウンターの上に置いた。
「2つでいいです」
僕がそう言うと、おばちゃんはおまけだと言って、そのまま渡してくれた。僕は握りしめて温かくなった、2つ分の代金の小銭を置いた。おばちゃんにお礼を言って、店を出た。
小走りで、家まで急ぐ。お店を出る前におばちゃんが教えてくれた。
「お母さんが、今日僕がおはぎ買いに行くからって電話してきてね。だから取っておいたんだよ。」
僕は。袋の中のおはぎを気にしながらもさっきより早く走る。おまけのおはぎはお母さんにあげよう。